日本の相対的貧困をデータで読み解く

みなさんは「相対的貧困」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?相対的貧困とは、その社会における 標準的な生活水準 と比べて経済的に厳しい状態のことです。具体的には、国や地域ごとの所得水準の中央値(ちょうど真ん中の人の所得)の半分に満たない所得しかない人々の割合を指します 。ものすごくざっくり言えば、収入をずらっと並べたときに真ん中の値の半分以下しか収入がない人たちが「貧困」とみなされるわけです。

この相対的貧困は、絶対的貧困(衣食住もままならない状態)とは異なり、その社会内での相対的な暮らし向きの指標です。では「相対的」に貧しいと何が問題なのでしょうか?それは、現代日本のように基本的なインフラやサービスが整った社会でも、周囲と比べて著しく低い収入しかないと、教育や就職など様々な面で不利を被りやすくなるからです。また所得格差が大きく開くと社会全体の一体感が損なわれたり、将来の経済成長にも悪影響を及ぼす可能性があります。そのため相対的貧困率は、社会の格差やセーフティネットの充実度を測る重要な統計として注目されているのです。

どうして周囲と比べて著しく低い収入しかないと、教育や就職など様々な面で不利を被りやすくなるのでしょうか?

以下の項目で確認していきましょう。

  • 日本の相対的貧困の現状
  • 国際比較
  • 相対的貧困がもたらす影響
  • 日本特有の問題点
  • 解決策と今後の展望

日本の相対的貧困の現状

日本における相対的貧困率(中央値の半分未満の所得しかない人の割合)は、最新の調査で約15%程度となっています。厚生労働省の発表によれば、2021年時点で日本の相対的貧困率は15.4%でした 。これは日本人全体で見るとおよそ6人に1人が相対的貧困状態にある計算です 。意外に感じる方もいるかもしれませんが、私たちの身近なところでも6人に1人は「平均の半分以下」の収入で暮らしているということになります。

この割合は長期的に見ると徐々に上昇傾向にありました。1980年代後半にはおよそ12%だった相対的貧困率は、2012年頃に16%を超えてピークに達し、その後わずかに改善して現在は15%台となっています 。貧困率がやや下がったとはいえ、依然として高止まりしている状況です。また貧困問題は子どもにも及んでおり、日本の子どもの貧困率(17歳以下で相対的貧困状態にある子どもの割合)は11.5%と報告されています 。子どもでは約8~9人に1人が貧困という計算で、将来世代への影響が心配されています。さらに深刻なのがひとり親家庭の状況で、そうした世帯の**貧困率は実に44.5%**にも達しています 。ひとり親家庭では 「2人に1人が貧困」 状態ということで、家計を支える大人が一人しかいない厳しさが数字にも表れています。

国際比較

では、日本の相対的貧困率は世界と比べて高いのでしょうか、それとも低いのでしょうか?結論から言うと、日本の貧困率は他の先進国と比べてもかなり高い水準です。経済協力開発機構(OECD)のデータによれば、日本の貧困率15.4%は、アメリカ(15.1%)や韓国(15.3%)よりも高く、主要先進国の中で最悪の水準と報じられました 。OECD加盟国の平均的な貧困率はだいたい11%前後と言われますので、日本は平均より明らかに上回っています。またヨーロッパの国々を見ると、例えばフランスやドイツは約10%前後、北欧のフィンランドやデンマークでは6~7%台といった具合に、日本よりかなり低い貧困率に抑えられています。

日本の相対的貧困率(赤色)と主要OECD諸国との比較。日本は15.4%と(米国=紫、韓国=青)より高く、OECD内でも上位に位置していることが分かる。  

上のグラフ(図表2)はOECD各国の貧困率を比較したものですが、日本(赤色)は右寄りの高い位置にあるのが見て取れます。つまり日本は「豊かな先進国」の中では相対的貧困層の割合が大きい国だということです。「貧困大国」などとセンセーショナルに言われることもありますが、少なくとも統計上は主要国の中で上位クラスの貧困率であるのは間違いありません。こうした国際比較から、日本の貧困問題の深刻さが一層浮き彫りになります。

相対的貧困がもたらす影響

相対的貧困の広がりは、社会のさまざまな分野に影響を及ぼします。まず大きいのが教育への影響です。収入が少ない家庭の子どもは、十分な教育資源を得にくく、学力や進学率で不利になりがちです。例えば、経済的に厳しい生活保護世帯の子どもの大学進学率は約33%しかありません。一方で日本全体の平均進学率は73.2%ですから、その半分以下にとどまっているのです 。塾や習い事を諦めざるを得なかったり、高校卒業後すぐ働かざるを得なかったりといった事情が背景にあります。十分な教育を受けられないと、その後の就職や収入にも響きます。実際、高卒と大卒では生涯賃金に数千万円規模の差がつくという試算もあり 、幼少期の貧困が**大人になってからの収入格差(ひいては次世代の貧困)**につながる「負の連鎖」も指摘されています。

次に雇用・労働への影響です。相対的貧困にある人の中には、いわゆる「ワーキングプア(働く貧困層)」が少なくありません。正社員ではなく不安定な非正規雇用で低賃金の仕事しか得られず、働いても働いても生活が楽にならない層です。日本では収入が低いと十分な貯蓄が難しく、景気変動や災害などで職を失うとたちまち生活が立ち行かなくなるケースもあります。雇用が不安定だと結婚や出産にも消極的になりやすく、少子化の一因とも言われます。また低所得のために十分な医療を受けられず健康を害したり、食生活が偏ってしまうなど生活全般の質への影響も無視できません。結果として高所得者との健康格差が生じたり、社会全体の医療コスト増につながる恐れもあります。

さらに、社会の中に大きな所得格差・貧困層の存在が広がると社会的な分断や治安への影響も懸念されます。相対的貧困層の子どもは「自分は社会に受け入れられていない」という疎外感を抱きやすく、自信や自己肯定感を失いやすいとも言われます 。その結果、大人になって社会に出ても周囲に溶け込みづらくなったり、犯罪や非行に走ってしまったりするリスクも指摘されています。このように相対的貧困は個人の問題に留まらず、教育機会の不平等、労働力の質の低下、社会不安の増大など社会全体にとっての損失をもたらす可能性があるのです。

日本特有の問題点

日本の相対的貧困の背景には、いくつか日本特有の構造的な問題も存在します。第一に指摘されるのが、雇用形態の変化です。1990年代のバブル崩壊以降、企業が人件費を抑制する流れの中で正社員の採用を控え、パートや派遣社員などの非正規雇用が大幅に増加しました。その結果、日本の労働者の約4割が非正規という状況になっています 。非正規の仕事は一般的に賃金が低くボーナスや昇給も少ないため、働いていても相対的貧困から抜け出せない人が増えています。また非正規だと雇用が不安定で失業のリスクも高く、生活の安定を欠きやすいです。かつての日本は「終身雇用・年功序列」で正社員として安定収入を得られる人が多く、中流意識が強かった社会でした。しかし今やその前提が崩れ、働いていても生活苦という人が珍しくなくなりました。この雇用環境の変化が、日本の貧困層拡大の一因となっています。

第二の問題は、社会保障や政策面での対応の遅れです。日本は高度経済成長期に構築した社会制度の枠組みを長く維持してきました。例えば「一家の大黒柱が安定収入を稼ぎ、専業主婦が家庭を守る」というモデルに合わせて、税制や社会保障制度が設計されていました。しかし少子高齢化や家族構成の多様化が進んだ現在、その制度が十分に機能せず貧困や格差を十分にカバーできていないという指摘があります 。具体的には、公的年金や生活保護などのセーフティネットがあるものの、現役世代への支援が手薄であることが課題です。日本の社会保障給付は高齢者向け(年金や医療)が中心で、働く世代や子育て世帯への現金給付は欧州諸国に比べて少ない傾向があります。そのため所得再分配(税金や社会保障による貧困緩和)の効果が弱く、結果的に市場所得ベースで高い貧困率がそのまま残りやすいのです。政府も「全世代型の社会保障へ転換する」といったスローガンを掲げて改革を模索していますが、人口構造の急速な変化に制度が追いついていないのが現状と言えるでしょう。

また、ひとり親家庭や子どもへの支援不足も日本の際立った課題です。前述したようにひとり親世帯の貧困率は非常に高いですが、これまで日本では主に「自己責任」や「家族による扶養」という考え方が強く、公的支援は限定的でした。近年ようやく児童扶養手当の拡充や養育費確保の支援など動き始めていますが、欧米に比べるとまだ十分とは言えません。さらに、教育の無償化や奨学金制度についても整備が遅れ、低所得世帯の子どもが高等教育を受けにくい状況が長らく放置されてきました。このような制度的な遅れや不備が、日本の相対的貧困を深刻化させた一因と考えられています。

解決策と今後の展望

相対的貧困という難題に対して、日本社会はこれからどのように向き合っていけばよいのでしょうか。まず重要なのは、所得再分配による貧困の緩和です。具体的には、低所得者層に対する現金給付や減税の強化、生活保護や住宅扶助などセーフティネットの拡充が考えられます。例えば子育て世帯への支援として、児童手当の増額や支給期間の延長、ひとり親へのさらなる支援金拡充などが挙げられます。また教育面では、教育の無償化をさらに進めることが有効でしょう。現在でも高校授業料無償化や給付型奨学金制度などがありますが、これを充実させて経済的理由で進学を諦める子どもがいないようにすることが大切です。将来的な人材育成という観点でも、教育への投資は貧困の連鎖を断ち切る有力な手段です。

次に、雇用環境の改善も欠かせません。非正規雇用で働く人にも安定した暮らしができるよう、最低賃金の着実な引き上げや、同一労働同一賃金の徹底による待遇改善が必要です。また正社員への転換支援や職業訓練の充実によって、低賃金労働から抜け出すチャンスを増やすことも考えられます。デジタル分野など新しい産業での人材育成や、副業・フリーランスへのセーフティネット整備など、多様な働き方に対応した支援策も求められています。企業側へのインセンティブ(例えば非正規から正規への登用促進策)を用意するのも一案でしょう。

さらに、社会全体の意識改革も展望として重要です。日本ではこれまで「見えづらい貧困」が放置されがちでしたが、近年ようやくメディアでも子ども食堂や教育格差の問題が取り上げられるようになってきました。貧困に対する偏見や自己責任論を和らげ、誰もが支え合えるコミュニティづくりを促進することも大切です。地域のNPOやボランティアによる学習支援、フードバンク活動など草の根の取り組みも増えています。行政と民間が協力して、困窮者が孤立しない仕組みを作ることが今後の課題と言えます。

政府もこうした課題に対応すべく動き始めています。2013年には「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が施行され、国を挙げて子どもの貧困解消に取り組む方針が打ち出されました。その後、幼児教育・保育の無償化や高校授業料の実質無償化、給付型奨学金の拡充など、少しずつ施策が進んでいます 。直近ではこども家庭庁が中心となり、教育支援や就労支援など包括的な貧困対策が検討されています 。また最低賃金も毎年のように引き上げられており、賃金底上げによる貧困改善にも期待がかかります。ただし抜本的な解決には相当の時間と政治的意思が必要でしょう。財政制約もある中でどこまで思い切った再分配策が取れるか、国民的な合意形成が問われています。

親が家にいるほうが「子どものため」になるという思い込みで、専業主婦に留まる「貧困専業主婦世帯」が問題のようですね。

貧困専業主婦世帯の4分の3の世帯の専業主婦は、子供を預けてまで働くよりも、子育てが大切と働きに出ようとしないそうです。

まとめ

  • 相対的貧困率15%超という数字は、先進国日本の陰の側面を映し出すものです。収入が「国の中央値の半分」に満たない人が6人に1人もいるという現実は、一見豊かに見える日本社会にも大きな格差が存在することを示しています。
  • 国際的に見ても高い水準の日本の貧困率は、教育や雇用、社会の安定にも影響を及ぼしうる重要な問題です。しかし同時に、近年はその改善に向けた動きも少しずつ始まっています。
  • 貧困状態にある人々を支援し、誰もが安心して暮らせる社会を実現するには何が必要なのか――私たち一人ひとりが関心を持ち、知恵を出し合うことが求められています。今回紹介したデータや国際比較も踏まえて、日本社会のあり方について改めて考えるきっかけになれば幸いです。
  • 私たちの意識と行動次第で、未来の貧困率を下げていくことはきっと可能なはずです。まずは身近な現実としてこの問題を捉え、より良い社会に向けて何ができるか一緒に考えていきましょう。

著者プロフィール

K2編集部
K2編集部
投資家、現役証券マン、現役保険マンの立場で記事を書いています。
K2アドバイザーによって内容確認した上で、K2公認の情報としてアップしています。

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