かつて日本の公的年金制度は、フルタイムの正社員を想定して設計されていました。そのため、短時間勤務のパート労働者(非正規雇用者)は多くが国民年金のみの加入にとどまり、老後の所得保障に格差が生じていました。しかし、少子高齢化や女性の労働力参加の増加など社会構造の変化に対応するため、年金制度は段階的に改革されてきました。特に厚生年金の適用拡大は、パート労働者の老後資金の底上げに大きな影響をもたらしています。
年金制度はどのように改革されてきたのでしょうか?
以下で、これまでの制度的背景、改革の経緯、現状、そして今後の課題について詳しく解説します。
- ① かつての制度:パート労働者は厚生年金の「外」
- ② 社会的背景:女性・高齢者の労働増加と年金格差問題
- ③ 改正の流れ:厚生年金適用の段階的拡大
- ④ 現在の状況:厚生年金に加入できるパートはどうなったか?
- ⑤ 今後の課題と展望:全員加入への道のり
① かつての制度:パート労働者は厚生年金の「外」

もともと公的年金制度は「国民皆年金」の理念のもとに、全ての国民が年金制度に加入する形となっていましたが、その加入制度は雇用形態によって異なります。
• 正社員:原則として**厚生年金(第2号被保険者)**に加入。
• パートや自営業者:**国民年金(第1号被保険者)**が中心。
以前は「正社員の4分の3以上の労働時間(=週30時間以上)」がなければ、パートタイマーは厚生年金に加入できず、企業の社会保険加入対象外とされていました。そのため、短時間パートの多くは国民年金のみに加入しており、将来的な年金受給額が非常に少ないという問題がありました。
② 社会的背景:女性・高齢者の労働増加と年金格差問題

特に女性の働き方の多様化とともに、パート勤務を選ぶ人が増えたことで、以下のような新たな社会的課題が浮上しました。
• 女性の貧困問題:年金が少ないため、老後生活に困窮する女性が増加。
• 第3号被保険者制度の不公平感:専業主婦(サラリーマンの扶養内)の妻は保険料免除で年金を受け取れるが、パートで働くと不利になるという逆転現象。
• 格差拡大の懸念:同じ業務をしていても、勤務時間の差で年金制度に大きな違いが生じる。
こうした声を背景に、政府は徐々に厚生年金の適用拡大を進める方針を明確にしました。
③ 改正の流れ:厚生年金適用の段階的拡大

改革の流れは以下のように段階的に進みました。
● 2016年(平成28年)10月 改正
従業員501人以上の企業で勤務するパートなど短時間労働者も、以下の条件をすべて満たせば厚生年金・健康保険の加入対象となりました。
• 週20時間以上の勤務
• 月額賃金88,000円以上(年収約106万円以上)
• 勤務期間1年以上(の見込み)
• 学生でない
● 2022年10月:対象企業を100人超に拡大
上記の要件は維持されたまま、対象となる企業規模が「従業員101人以上」に引き下げられました。
● 2024年10月:さらに50人超へと拡大
2024年10月からは、従業員51人以上の企業まで適用範囲が拡大され、中小企業のパート労働者にも厚生年金加入の機会が広がりました。
このように、企業規模要件を段階的に引き下げることで、より多くのパート労働者が厚生年金の恩恵を受けられるようになったのです。
④ 現在の状況:厚生年金に加入できるパートはどうなったか?

2025年時点での主な厚生年金加入要件(短時間労働者向け)をまとめると上の通りです:
これにより、パートであっても一定の労働条件を満たせば厚生年金に加入でき、将来の受給額も増加する仕組みが整っています。
特に、国民年金だけでは月額5万円前後の基礎年金しかもらえないのに対し、厚生年金加入者は**平均で月額15万円以上(基礎+報酬比例)**となることもあり、経済的な格差縮小に寄与しています。
⑤ 今後の課題と展望:全員加入への道のり

パート労働者の年金改革は進んでいるものの、今後も多くの課題が残されています:
• 中小企業への影響:社会保険加入による人件費増を嫌い、雇用抑制に動く企業もある。
• 個人の収入調整行動:年収106万円を超えないように就業時間を抑える“年収の壁”問題が依然として存在。
• 学生や複数事業所勤務者の取り扱い:一つの事業所での条件を満たさないと加入できず、実質フルタイムでも未加入の例あり。
• 将来的な全事業所適用の議論:最終的には企業規模に関係なく適用される可能性も示唆されている。
今後の改革では、「労働時間や企業規模に左右されず、全ての働く人が厚生年金に加入できる仕組み」への移行が求められています。
私は週20時間働くパートですが、年収が105万円です。このままだと厚生年金には入れませんか?
はい、現行制度では年収が106万円未満(=月額賃金88,000円未満)だと、たとえ週20時間働いていても厚生年金の加入対象外となる可能性が高いです。
年収が106万円以上になることで加入資格が得られ、将来の年金受給額が大きく変わります。就労時間や収入の調整については、自身のライフプランと照らし合わせて検討しましょう。
まとめ
- かつては「年金弱者」とされたパート労働者ですが、近年の制度改革により厚生年金の門戸が徐々に開かれている
- 政府は働き方に中立な社会保障制度を目指しており、正社員と非正規社員との格差を是正する方向で政策が進んでいる
- とはいえ、まだ**「106万円の壁」「企業の加入義務の範囲」「制度の理解不足」**といった障害も残っており、個人・企業・政策側の三者による継続的な取り組みが必要
著者プロフィール

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投資家、現役証券マン、現役保険マンの立場で記事を書いています。
K2アドバイザーによって内容確認した上で、K2公認の情報としてアップしています。
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