はじめに:顧客情報持ち出しの実態と社会問題化
2026年2月、日本の生命保険(生保)業界でまた大規模な顧客情報持ち出し・不正取得の実態が明らかになった。
第一生命ホールディングスは、傘下の生命保険会社3社に所属する社員64名が、出向先の販売代理店から1155件もの顧客・内部情報を無断で持ち出していたと発表した。保険販売の現場でコンプライアンス意識が著しく欠如している実態が露呈している。これにより大手生保4社での同種の不正行為は合計約3517件に達していることが示され、「情報の持ち出し」が業界全体で常態化しているとの批判が強まっている。 
この「顧客情報の不正持ち出し」は単なる個別事件ではなく、業界構造・競争慣行と深く結びついた構造的問題として捉える必要がある。損保界での象徴的事件として記憶されるビッグモーターの保険不正販売(2010年代後半〜2020年代初頭)に続き、今回の生保業界でも顧客をダシにした収益追求が常態化し、倫理観の欠如が組織深部に浸透している可能性がある。
- 不祥事の実態──生保4社におよぶ顧客情報の無断取得と持ち出し
- 不正の背景──合理性追求とコミッション重視の業界文化
- 金融庁・規制当局の対応とその限界
- 顧客保護制度と情報管理法制の現状
- 生保業界の構造的課題と倫理再構築の必要性
不祥事の実態──生保4社におよぶ顧客情報の無断取得と持ち出し

1.1 第一生命グループの事案
第一生命HD傘下三社での顧客情報無断持ち出し事案は2021年4月からの4年半に及び、出向者が1155件もの不正な情報取得を行っていたというものだ。対象となった情報は代理店の営業成績データや他社商品データ、一部は顧客の氏名なども含まれていた。これらは企業内での比較・分析という建前を超えて、販売活動における不正優位性確保のために利用された可能性が指摘されている。 
1.2 大手他社の状況
同様の事案は第一生命グループに限らず、他の大手生保でも顕在化している。例えば:
• 明治安田生命保険:39件
• 住友生命保険:780件
• 日本生命保険:グループ全体で約1500件
といった形で、業界全体での不正な情報取得・持ち出しが累積しており、結果として約3500件もの不祥事が確認された。 
このように情報持ち出しが横並びで発生している背景には、単なる「モラルハザード」以上の業界構造的な問題が存在する。
不正の背景──合理性追求とコミッション重視の業界文化

2.1 顧客情報の“不正共有”が起きる理由
生命保険販売においては代理店や銀行本部など異業種との連携が一般的だが、ここに「出向者制度」が長年利用されてきた。出向者は自社の専門知識を現場に投入し、顧客接点強化や商品説明支援を行う一方で、本社と代理店双方に横断的な情報アクセス権を持つ立場にある。
しかしこの制度は一方で、
• 代理店内部情報への容易なアクセス
• 顧客属性・契約データの横流し
• 成績評価・報酬への反映
など、不正取得・利用を誘発する構造的欠陥を内包していた。
たとえば、持ち出された情報が代理店の営業成績データであれば、これを元に本社側が「突出した販売エリア・営業パーソン」を分析して重点支援することができる。表向きは「合理的な販売支援」であっても、実際には「攻略ポイントを探るための内部情報の横流し」となり得るのだ。
2.2 競争激化と倫理意識の希薄化
保険市場自体が成熟・縮小局面に入り、販売高シェアの奪い合いが激化している点も見逃せない。若年層の保険離れや低金利環境の継続により、既存契約の維持・新規契約獲得が経営上の最重要課題となっている。これに伴い、
• 数値至上主義
• 契約件数・保険料収入重視
• コミッション偏重の評価制度
といった文化が助長され、顧客本位の視点は二の次になっている可能性が高い。
結果として、実務現場では「多少のルール逸脱は売上につながる」「不正に近い情報取得でも競争力強化に寄与する」といった意識が蔓延しやすい土壌が形成されたことが想定される。
金融庁・規制当局の対応とその限界

これらの不祥事を受け、金融庁は報告徴求命令を発出し、コンプライアンス体制の強化と再発防止を求めている。また、今夏には保険業界の不正対策を強化するための組織再編・新設も予定されている。 
しかしながら、規制強化は事後対応に過ぎず、現場レベルでの倫理観とガバナンス文化の刷新にまで踏み込んだ変革には至っていないのが現実だ。規制強化だけでは、以下の根本課題を解決しきれない:
• 情報アクセスの権限設計の問題
• 出向制度の根本的再評価
• 代理店・本社双方の評価制度の改革
• 顧客利益を軸にしたコンプライアンス文化の醸成
顧客保護制度と情報管理法制の現状

日本では**個人情報の保護に関する法律(APPI)**が存在するものの、企業内部における「営業情報・顧客データ」の扱いについては、法的制約と業務目的の線引きが曖昧であり、内部者による不正取得への抑止効果が限定的な面がある。 
生命保険の場合、氏名・住所・契約履歴・支払い履歴など多岐にわたる顧客データは極めて高い機微性を持つ。それゆえ、これらの情報の扱いは高度な保護が求められるにもかかわらず、社内制度の不備が裏目に出てしまった形だ。
生保業界の構造的課題と倫理再構築の必要性

5.1 「顧客本位」より「業績優先」の業界文化
顧客情報問題が今なお連続して発生している背景には、合理性論よりも販売指標・コミッションを重視する業界体質がある。生命保険ビジネスは金融商品としての性質と同時に「人の人生のリスクと保障」を扱う公益性を持つにもかかわらず、その根本原則が経営・現場で軽視されている可能性がある。
5.2 ガバナンスとインセンティブ設計の再考
• 社内評価制度で数値至上主義に傾倒している
• 出向制度が権限乱用を誘発している
• 情報管理ポリシーが現場で運用されていない
これらは全てガバナンス不全の兆候であり、業界レベルでの構造改革が不可欠だ。
5.3 顧客信頼の回復が業界存続の鍵
不正が続けば、保険商品そのものに対する消費者の信頼の毀損が避けられない。生命保険は一度契約すると長期にわたる関係が基本であり、契約者との信頼関係無しには成立しない商品である。顧客情報の不正取得・利用が常態化してしまえば、その基盤そのものが崩壊する危険がある。
信頼があってこその業界なのに本質的に逆のことが起こっていますね。
やはり手数料体系や業界独自の空気感から悪い構造になっているのでしょう。
担当者がしっかりしているかどうか含めて、セカンドオピニオンとして気軽にご相談ください。
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結論:顧客不在の保険販売からの脱却へ
今回の一連の不祥事は、単なる「一部社員の倫理観の欠如」ではなく、生命保険業界の根深い構造問題を浮き彫りにした。顧客データの不正持ち出しが累積し、それが業界横断的に発生していることは、経営陣・監督当局・現場が総力を挙げて取り組むべき重大な事案である。
保険とは「顧客のリスクを軽減し安心を提供する金融商品」であり、顧客の信頼こそが価値の源泉である。そこを忘れ、短期的利益・数値評価・コミッション重視に走ることは、市場全体の健全性を損なう。今こそ社会から信頼される保険業界へと転換するための道筋を構築すべきだ。
著者プロフィール

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投資家、現役証券マン、現役保険マンの立場で記事を書いています。
K2アドバイザーによって内容確認した上で、K2公認の情報としてアップしています。
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