人は本来、自分の知識不足や判断ミスと向き合うことに強い抵抗を持つ。特にお金の世界では、損失や失敗を認めることは「自分の能力」や「選択の正しさ」を否定する行為でもあるため、心理的ハードルがさらに高い。その結果、多くの人が“責任の転嫁”という最も楽な出口を選ぶ。
投資商品で損をすれば証券マンのせい。送金手続きでつまずけば銀行のせい。加入した保険に不満が出れば販売した知人のせい。そして制度の変更や市場の変動を国や環境のせいにする。
しかしそれらは、本質的には「主体的に考えてこなかった自分」の問題である。情報を集めず、仕組みを理解せず、わからないまま“人に選択基準を預けた”結果でしかない。本稿では、この構造を解剖し、その背景にあるメンタルモデルと、正しい主体性の取り戻し方を示す。
- 無知の本質は“情報不足”ではなく“判断の委託”にある
- トラブルが起きた時に他者を責める人の共通点
- 保険や投資で後悔する人の心理 ― 情報を集めず“人”に依存する構造
- 制度や国を責めるという最終的な逃避 ― NISAの例に見る責任転嫁
- 主体的に考えるという当たり前のことを、多くの人がやっていない
無知の本質は“情報不足”ではなく“判断の委託”にある

多くの人は「知らないから損をした」と考える。しかし、実際の原因はほとんどの場合“知らないのに決めた”という行動にある。
例えば投資商品のリスク構造や満期、ロック期間、手数料を理解せず契約すれば、後から損失が出るのは時間の問題である。それを証券マンの説明不足だと言う人は多いが、本来投資の意思決定の主体は投資家自身であり、最終判断の責任は委託できない。
知識の不足は問題ではない。問題なのは「知らないからこそ質問し、理解しようとする姿勢」を持たなかったこと。無知とは“情報の欠落”ではなく“理解しようとしない姿勢”のことだ。
トラブルが起きた時に他者を責める人の共通点

他責に走る人には明確なパターンがある。
• 仕組みを理解しようとしない
• 自分の判断基準を持たない
• 他人に判断を委ねることで安心を得る
• 結果が悪ければ他人の責任にする
• 良い結果だけ自分の手柄にする
例えば海外送金がうまくいかなければ、銀行員や業者の説明が悪かったと言う。しかし、送金の本質は「自分が何を目的に、どこへ、どの条件で送るか」を整理して伝えることにあり、それを準備しなかった自分の落ち度を見ない。
“自分は悪くない”という心理は、人間が本能的に選びがちな逃げ道だ。
保険や投資で後悔する人の心理 ― 情報を集めず“人”に依存する構造

特に保険や投資は「知っている人から買った」という理由で判断してしまう人が多い。
しかし、いざネットで悪評を見たり、もっと良い商品があると知った瞬間、後悔へと一気に転じる。これは本質的には「商品を比較・理解せず、人に基準を委ねたのが原因」。
つまり、最初から主体的に選んでいないため、後から知識が入った瞬間に「騙された」と感じる構造が生まれる。これは“依存型の判断”が生む典型的な失敗である。
制度や国を責めるという最終的な逃避 ― NISAの例に見る責任転嫁

投資の損失を国や制度のせいにする人は多い。
NISAで損をしたら「国の政策が悪い」と言う。しかし、本来NISAは単なる枠組みであって、どの商品を選ぶかは完全に自分の意思である。
制度が損失を生むのではない。
自分が主体性を持わず、理解せずに選択したことが損失を生むのである。
国は責任を取ってくれないし、取る前提でつくられた制度でもない。投資で最後に責任を負うのはいつも自分だ。
主体的に考えるという当たり前のことを、多くの人がやっていない

「主体的に考えればいいだけ」と言うと簡単に聞こえるが、実際は大多数ができていない。
理由は明確で、主体的に考えるとは:
• 情報を集める
• 自分の頭で分析する
• わからない部分を質問して埋める
• 判断基準を自分で作る
• 結果の責任を引き受ける
という“5つの面倒な作業”を伴うからである。
だからこそ、多くの人が「この人が良いと言っていたから」という理由に逃げる。しかし、その瞬間から、判断の主体は自分ではなくなる。
そして結果が悪ければ“人のせい”という、最も未成熟な責任転嫁が完成する。
責任を持つというのはストレスになりますからね。
それでも他責ばかりでは成長しないので、投資に関わらず自責の心構えは必要です。
まとめ:無知の責任は、いつも自分にある ― だからこそ主体性が価値になる
無知を他人のせいにするのは簡単だ。しかし、それは一生成長しない人間の特徴でもある。
投資でも保険でも海外送金でも、意思決定の主体者は常に自分。
知らないなら学べばいい。わからないなら質問すればいい。分析できないなら時間をかければいい。
それを怠り、「他人に判断基準を預けた」時点で、損失の原因は最初から自分にある。
主体性は、最強のリスク管理であり、最大の資産である。
自分で考え、自分で決め、自分で責任を取る。
たったそれだけで、人生も投資もほとんどの失敗は避けられる。
著者プロフィール

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投資家、現役証券マン、現役保険マンの立場で記事を書いています。
K2アドバイザーによって内容確認した上で、K2公認の情報としてアップしています。
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