2000年代以降、日本人投資家の間で「香港のIFAを通じて海外積立やオフショア保険に加入できる」という話題が急速に広まりました。背景には、日本の低金利環境や国内金融商品のリターン低迷があり、「海外ならもっと増えるのでは」という期待心理が働いたことが大きな要因です。香港IFAはその心理を巧みに利用し、セミナー・紹介制度・インターネット広告・富裕層向けイベントなど多様なチャネルを通じて営業を展開しました。
しかし実態を掘り下げると、販売の中心は「外貨建ての積立型保険」や「投資一体型ユニットリンク商品」であり、その多くが高コスト・長期拘束の商品でした。結果として、多くの契約者が途中解約による損失やフォロー不足に直面し、「海外積立は危ない」という評判が広まることとなります。
香港IFAが日本人に保険商品を売り込む手法について教えてください。
以下では、保険商品を売り込んだ代表的な手法を5つの観点から解説します。
- 富裕層・駐在員ネットワークを起点とした紹介営業
- セミナー・相談会による教育型営業
- インターネット広告と情報サイトの活用
- 税制優遇・相続対策を強調した提案
- ブランド力と安心感を利用した心理戦略
富裕層・駐在員ネットワークを起点とした紹介営業

香港IFAの多くは、まず香港やシンガポールに滞在する日本人駐在員や現地法人の管理職を対象に営業を仕掛けました。駐在員はドル建て収入を得ているケースが多く、外貨建ての保険や積立との相性が良いため、成約に至りやすかったのです。
さらに、駐在員同士のネットワークや現地日本人会を通じて「IFAを紹介してもらった」という形で口コミが広がり、その後は日本国内の知人・親族への紹介にまで発展しました。この「紹介モデル」は顧客の信頼を得やすく、短期間で日本人コミュニティに深く浸透しました。結果的に、日本に帰任した元駐在員がIFAとの関係を維持し、日本国内でも契約を続ける流れが定着したのです。
セミナー・相談会による教育型営業

香港IFAは頻繁に日本でセミナーや個別相談会を開催しました。場所は東京や大阪のホテル会議室、あるいは高級レストランやバーラウンジで行われることもあり、富裕層をターゲットとした「特別感」の演出がなされました。
セミナーでは「日本の年金制度の限界」「国内保険の低返戻率」「海外投資のメリット」といった問題提起を行い、不安を煽る形で聴衆を惹きつけます。そのうえで「海外積立なら20年後に数倍になる」「ドル建てでインフレに強い」といった魅力的な将来像を提示し、加入を後押ししました。相談会では、日本語に堪能なIFA担当者や通訳が同席し、顧客が不安を感じないよう配慮しました。こうした「教育型営業」によって、国内金融機関では得られない特別な商品であるという認識が植え付けられました。
インターネット広告と情報サイトの活用

2010年代以降、香港IFAはインターネットを積極的に活用しました。「海外積立」「香港IFA」「老後資金形成」といったキーワードで検索すると、解説記事風の広告サイトや比較サイトが数多く表示されました。そこには「日本の金融庁では買えない特別商品」「世界の富裕層が活用するオフショア保険」といった誇張気味の表現が並び、読者の興味を引きました。
さらに、LINEやFacebookなどSNSを通じてセミナー案内や無料相談の勧誘が行われ、見込み客の囲い込みが進められました。これらの広告は「情報提供」を装いながら、最終的にはIFAに誘導する構造になっており、消費者は自然に営業の流れに組み込まれていきました。
税制優遇・相続対策を強調した提案

香港IFAの営業では、単なる資産形成だけでなく「相続対策」「税制メリット」も強調されました。生命保険を利用することで「非課税枠を活用できる」「香港の商品は相続税の対象外になる」といった説明がなされ、日本の富裕層投資家に響くよう工夫されていました。
また、「オフショア保険なら資産を香港やマン島に移せる」「日本の税務当局に把握されにくい」といった曖昧な表現で販売されたケースも報告されています。これにより「節税につながる」という誤解が広まりましたが、実際には日本の税制に従えば海外保険も課税対象であり、結果的にトラブルに発展する事例もありました。
ブランド力と安心感を利用した心理戦略

最後に挙げるべきは、「大手保険会社のブランド力」を前面に出した心理的アプローチです。Zurich、Friends Provident International、RL360、Sun Lifeといった国際的な大手保険会社の商品を扱うことで、「日本では聞き慣れないが、世界的には有名な会社」という安心感を与えました。
IFAは「世界の富裕層が利用している」「100年以上の歴史がある」と強調し、信頼性を訴求しました。投資家は「国内金融機関の商品よりも優れているのでは」と錯覚しやすく、結果として高コスト・長期拘束の商品にも抵抗なく加入してしまう構図が出来上がったのです。
香港IFAが悪いのでしょうか?
「香港IFAが悪い」のではなく「投資家に不利な商品を、過度に魅力的に演出して販売した」ことが問題の本質です。
今後もし同様の商品を検討する場合は、販売手法の演出に惑わされず、国内の低コスト商品と比較検討する冷静さが不可欠でしょう。
まとめ
- 香港IFAが日本在住の日本人に保険商品を売り込む手法は、以下の5つに整理できます。
- • 富裕層・駐在員ネットワークを利用した紹介営業
- セミナーや相談会を通じた教育型営業
- インターネット広告やSNSによる情報誘導
- 節税・相続対策を強調したアプローチ
- 国際的ブランド力を利用した心理戦略
著者プロフィール

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投資家、現役証券マン、現役保険マンの立場で記事を書いています。
K2アドバイザーによって内容確認した上で、K2公認の情報としてアップしています。
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