かつて証券マンは、「この株が来る」「この投信は伸びる」「今が仕込み時だ」と、半ば職人的な勘と経験を武器に、顧客に対して明確な“答え”を提示する存在だった。もちろん、その多くは営業ノルマに基づく「会社都合の商品」でもあり、必ずしも顧客本位とは言えなかった。しかし少なくとも、「自分はこれが正しいと思う」というスタンスを持っていた点では、現在よりもはるかに“主体的”だった。
ところが現在、多くの証券マンは「おすすめできる商品がない」「判断はお客様ご自身で」「リスクをご理解の上で…」という言葉を繰り返すだけの存在になりつつある。結果として、「何を買えばいいのか分からない投資家」と「何も言えない営業マン」が量産され、市場全体の活力も失われている。
この背景には、個人情報保護、コンプライアンス強化、金融規制の高度化、訴訟リスクの増大など、複合的な構造問題が存在する。本稿では、その実態を多角的に掘り下げていく。
- ノルマ営業全盛期に存在していた「歪んだが機能していた市場」
- 個人情報保護とコンプラ強化がもたらした「沈黙の営業」
- 訴訟リスク社会が生んだ「責任回避型プロフェッショナル」
- ネット証券・ETF時代が奪った「営業の存在価値」
- プロとしての矜持を失った業界の“静かな衰退”
ノルマ営業全盛期に存在していた「歪んだが機能していた市場」

20年前までの証券業界は、良くも悪くも「ノルマ至上主義」の世界だった。
月間販売額、回転売買件数、特定商品の販売本数――こうした指標が営業評価の中心であり、現場は常に“数字”に追われていた。
この時代、多くの証券会社では、
• 募集型ファンド
• 仕組債
• 新規公開株(IPO)
• 外貨建て債券
• 高信託報酬投信
などが“重点商品”として配布され、営業マンは半ば強制的に販売させられていた。
例えば、野村證券や大和証券といった大手でも、現場レベルでは「これを今月◯本売れ」という指示が飛び交っていた。
もちろん問題は多かった。
• 顧客ニーズ無視
• 回転売買
• 不適合勧誘
• 手数料稼ぎ優先
こうした“歪み”は常態化していた。
しかし同時に、この時代の営業マンには「自分なりの相場観」「銘柄選定力」「商品理解」が求められていたのも事実である。売るためには、最低限のストーリーと信念が必要だったからだ。
個人情報保護とコンプラ強化がもたらした「沈黙の営業」

2000年代後半以降、証券業界は急速に規制強化の波に飲み込まれていく。
代表的なのが、
• 個人情報保護法の厳格運用
• 金融商品販売法の改正
• 適合性原則の強化
• 内部監査・録音記録の義務化
• 苦情・訴訟対応の高度化
である。
特に、金融庁による検査体制の強化は、現場の営業行動を大きく変えた。
現在の証券営業は、以下を常に意識している。
• この説明で後から問題にならないか
• 書面は完璧か
• 録音に残って大丈夫か
• 苦情に発展しないか
結果として生まれたのが、「無難営業」である。
具体的には、
• 明確な推奨を避ける
• 判断を顧客に丸投げ
• リスク説明の過剰化
• テンプレ対応
というスタイルだ。
「これが買いです」と言うよりも、
「一般論としては…」「あくまで参考ですが…」
という前置きが常態化している。
営業マンは“金融の専門家”ではなく、“リスク回避担当者”になってしまったのである。
訴訟リスク社会が生んだ「責任回避型プロフェッショナル」

現代の証券マンが最も恐れているものは何か。それは、市場の暴落ではない。顧客からのクレームと訴訟である。
過去20年で、日本の金融業界では数多くのトラブルが表面化してきた。
• 仕組債問題
• 毎月分配型投信問題
• 外貨建て保険問題
• レバレッジ商品問題
これらはすべて、「説明不足」「不適合販売」として問題視された。
一度クレームが発生すれば、
• 社内調査
• 本部報告
• 上司面談
• 人事評価への影響
• 異動・降格リスク
が連鎖的に発生する。
この環境下で、積極的に推奨する営業マンが減るのは必然である。
結果として生まれたのが、
「当たり前のことしか言わない専門家」
という存在だ。
彼らは知識がないわけではない。むしろ資格や研修は昔より充実している。しかし、“判断する勇気”を持てない構造になっている。
ネット証券・ETF時代が奪った「営業の存在価値」

もう一つの大きな要因が、投資の“自己完結化”である。
ネット証券の普及により、個人投資家は、
• 手数料無料
• 即時売買
• 情報過多
• SNS投資家
に囲まれるようになった。
現在では、
• インデックス投資
• ETF積立
• 米国株直接投資
が主流となり、営業マンを介さずに投資が完結する。
多くの若年層投資家は、そもそも証券会社の担当者と話したことがない。
この環境下で、証券マンの役割は急速に縮小した。
• 情報提供 → ネットで代替
• 銘柄分析 → AIで代替
• 売買執行 → アプリで代替
残された役割は、「トラブル対応」と「事務処理」だけになりつつある。
当然、「これが買いだ」と語れる存在感は失われていく。
プロとしての矜持を失った業界の“静かな衰退”

現在の証券業界は、一見すると安定しているように見える。しかし内側では、深刻な空洞化が進んでいる。
若手営業マンの多くは、
• 相場を読まない
• 企業分析をしない
• マクロを理解しない
• 長期視点を持たない
なぜなら、それが評価に直結しないからだ。
評価されるのは、
• コンプラ遵守
• クレームゼロ
• 書類ミスゼロ
• 手続き正確性
だけである。
結果として、「金融プロフェッショナル」ではなく、「金融事務職」に近い人材が増殖している。
これは個人の問題ではない。制度設計の問題である。
“失敗しない人”が評価され、“挑戦する人”が排除される仕組みでは、専門性は育たない。
でも、リスク管理を重視するのは悪いことではないですよね?
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まとめ:沈黙する証券マンと成熟を失った投資社会
「これが買いだと言えない証券マン」が増えた理由は、単なる怠慢ではない。
それは、
• 規制強化
• 訴訟社会
• 自己責任論
• ネット化
• 管理主義
が複合的に作用した結果である。
現在の証券営業は、
「顧客を守るため」ではなく、
「自分と会社を守るため」
に最適化されている。
その結果、顧客は“自己責任”の名の下に放置され、営業マンは“無難な案内係”へと転落した。
本来、金融とは、
• リスクを見極め
• 将来を設計し
• 最適解を模索する
知的作業であるはずだ。
しかし今の日本では、その役割を担うプロフェッショナルが制度的に育たない構造になっている。
沈黙する証券マンの増殖は、業界の成熟ではなく、衰退のサインである。
もし今後、真に価値ある金融アドバイザーが再び必要とされるなら、それは「規制緩和」ではなく、「責任と裁量の再設計」から始まるだろう。
無難さの先に、未来はない。
著者プロフィール

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投資家、現役証券マン、現役保険マンの立場で記事を書いています。
K2アドバイザーによって内容確認した上で、K2公認の情報としてアップしています。
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