損切りできない投資家が陥る構造的欠陥と、期待値思考への転換

投資の世界には、「利益確定はできるが、損切りができない」という典型的な行動パターンが存在する。本人にとっては慎重で我慢強い判断のつもりでも、結果として資産形成を長期的に阻害しているケースは多い。
この行動の根底にあるのは、合理性ではなく心理である。「負けを認めたくない」「自分の判断が間違っていたと認めるのは屈辱だ」「一度買ったものは、いつか戻るはずだ」という思考が、冷静な判断を鈍らせる。

しかし、投資とは本来、過去の意思決定の正当性を証明する場ではない。重要なのは、現時点から見て、その資産を保有し続ける合理的理由があるかどうか、ただそれだけである。
損切りを拒む姿勢は、全勝を目指す態度と表裏一体だが、皮肉なことに「全勝主義」は投資家の勝率を下げ、最終的な成果を悪化させる。

さらに厄介なのは、利益が出たときは自分の手柄、損失が出たときは他人のせいにする思考が、人間関係と投資判断の双方を腐食させる点である。損切りを提案してくれる存在に感謝できるかどうかは、投資家としての成熟度を測る重要な指標と言える。

  • 「全勝」を目指す思考が、最も非合理である理由
  • 判断基準は常に「今から見た期待収益率」である
  • 損切りは「負け」ではなく、情報更新の結果
  • 責任転嫁の思考が、投資家を孤立させる
  • 損切りを提案してくれる人の希少性

「全勝」を目指す思考が、最も非合理である理由

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多くの投資家は無意識のうちに「負けない投資」を目指している。すべての取引で勝ち、損失を一切出さないことが理想だと考える。しかし現実の市場において、そのような姿勢は成立しない。
なぜなら、投資は確率の世界であり、不確実性を前提とした行為だからである。

全勝を目指すと、損失を確定させる行為そのものが心理的に耐え難くなる。結果として、損失を抱えたポジションを「いつか戻るはずだ」と正当化し、合理的な撤退判断を先延ばしにする。
この時点で、判断基準は将来ではなく、過去に固定されてしまっている。

本来、投資の勝敗は個々の取引ではなく、取引の集合体として評価されるべきものである。一部の取引で負けることは前提条件であり、それを受け入れられない姿勢こそが、長期的な敗北を招く。
全勝主義は、投資家を慎重にするのではなく、柔軟性を奪う思考停止の装置に変わる。

判断基準は常に「今から見た期待収益率」である

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含み損を抱えた資産を前にすると、多くの投資家は購入価格を基準に判断を行う。「ここまで下がったのだから、もう少し待てば戻るだろう」という思考である。
しかし、購入価格はすでに確定した過去の事実であり、将来の価格形成には何の影響も与えない。

投資判断で唯一意味を持つのは、
「この資産は、今この瞬間から見て、将来どれだけのリターンが期待できるのか」
という問いである。
上がる確率が高いのか、リスクに見合ったリターンがあるのか、代替案と比べて優位性があるのか。判断材料はすべて未来に向けられるべきだ。

含み益が出ている資産であっても、期待収益率が低下しているなら保有を続ける合理性はない。逆に、含み損が出ていても、期待値が高いなら保有は正当化される。
期待値思考に立てば、「損切り」という言葉自体が、単なる感情的ラベルに過ぎないことが理解できる。

損切りは「負け」ではなく、情報更新の結果

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損切りを嫌う投資家の多くは、それを敗北や失敗と同一視している。しかし実際には、損切りとは新しい情報を反映した判断の更新に過ぎない。
市場環境は常に変化し、前提条件も流動的である。購入時に成立していた仮説が、後になって崩れることは珍しくない。

その変化を認識しながらも、「一度決めたから」「ここまで来たから」という理由で判断を変えないのは、合理性ではなく感情への服従である。
誤りを認め、戦略を修正できる能力こそが、投資家にとって最も重要なスキルの一つだ。

むしろ、誤った前提を放置し続けることの方が、はるかに大きなリスクを孕む。損切りは損失を確定させる行為ではあるが、同時に将来のさらなる損失を遮断する行為でもある。
この視点に立てば、損切りは消極的な選択ではなく、積極的なリスク管理と位置づけられる。

責任転嫁の思考が、投資家を孤立させる

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利益が出たときは自分の判断力のおかげ、損失が出たときは他人の助言や環境のせい。この思考は、一見すると自尊心を守るように見えるが、長期的には致命的である。
なぜなら、この姿勢は学習を阻害し、周囲との信頼関係を破壊するからだ。

損失の原因を外部に求める限り、同じ過ちを修正することはできない。また、助言をした側は一方的に責任を負わされる形になり、次第に意見を述べなくなる。
結果として、投資家の周囲からは、耳の痛い忠告をしてくれる存在が消えていく。

投資は孤独な作業になりがちだが、完全な独りよがりは最も危険な状態である。健全なフィードバックが得られない環境では、判断の質は確実に低下する。
責任を引き受ける姿勢は、単なる道徳論ではなく、投資成績に直結する実務的要件である。

損切りを提案してくれる人の希少性

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損切りを提案するという行為は、心理的にも関係性の面でも大きなコストを伴う。相手の感情を害する可能性が高く、場合によっては信頼関係を損ねることさえある。
それでもなお意見を述べる人は、短期的な好感よりも、長期的な成果を重視している。

その提案が正しかったかどうかは、結果論でしか評価できない。しかし重要なのは、別の視点を提示してくれたという事実である。
損切りという選択肢を認識できたことで、投資家はより広い判断空間を持つことができる。

提案を受け入れるか否かは投資家自身の責任だが、その存在に感謝できるかどうかが、器の差となって表れる。
多様な意見を吸収し、最終判断を自分で下す姿勢こそが、長期的に生き残る投資家の共通点である。

損切りはストレスの掛かることだし決断できないんですよね。

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まとめ

投資とは、勝敗を競う競技ではなく、期待値を積み重ねる意思決定の連続である。
全勝を目指す執着、過去の判断への固執、責任転嫁の思考は、いずれも合理性を奪い、結果として投資家を弱体化させる。

重要なのは常に、「今から見て、この資産を保有する合理的理由があるか」を問い続けることだ。そして、損切りを提案してくれる存在に感謝できる投資家こそが、資産形成においても、人間関係においても、長期的なリターンを手にするのである。

著者プロフィール

K2編集部
K2編集部
投資家、現役証券マン、現役保険マンの立場で記事を書いています。
K2アドバイザーによって内容確認した上で、K2公認の情報としてアップしています。

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