ニデック(旧・日本電産)で発覚した不適切会計問題は、表層的には「一部子会社における会計処理の誤り」「会計基準解釈の不備」と整理されることが多い。しかし、投資家や市場関係者が本件を重く受け止めた理由は、単なる会計テクニカルの問題ではない。
この事案は、
• 長年続いたM&A主導・高成長モデル
• 創業者による強烈なトップダウン経営
• グローバル展開に対して追いつかなかった内部統制・会計ガバナンス
これらが同時に限界点に達したことを示す、構造的な警告であった。
粉飾決算のような悪質な不正行為とは性質を異にする一方で、「結果として財務情報の信頼性を毀損した」という点において、市場評価に与えた影響は決して軽くない。本稿では、なぜこの問題が起き、なぜここまで評価を下げる要因となったのかを、冷静に分解していく。
- 不適切会計の中身――何が問題視されたのか
- M&Aドリブン経営が抱える宿命
- 永守重信という経営者の功と影
- 投資家が評価を下げた本当の理由
- 再発防止は可能か――今後の焦点
不適切会計の中身――何が問題視されたのか

今回問題となったのは、主に海外子会社における収益認識および費用計上のタイミングである。
具体的には、
• 本来は将来期間に認識すべき費用・損失を繰り延べ
• 収益を前倒しで計上
• プロジェクト単位での採算管理が不十分なまま決算処理
といった点が重なり、実態よりも業績が良く見える会計処理が行われていた可能性が指摘された。
重要なのは、
• 架空売上
• 意図的な虚偽記載
• 組織的な隠蔽工作
といった、いわゆる典型的な粉飾決算の構図ではない点だ。
しかし、会計基準の「解釈の幅」を自社に有利な方向で使い続けた結果、適正性の一線を越えてしまったという評価は免れない。
会計とは、ルールであると同時に「信頼のインフラ」だ。その信頼が一部でも揺らいだ時、市場は金額以上の意味を読み取る。
M&Aドリブン経営が抱える宿命

ニデックの成長史は、そのままM&Aの歴史でもある。
世界中のモーターメーカーや部品メーカーを次々に買収し、短期間で収益改善を実現してきた手腕は、他社の追随を許さなかった。
しかし、このモデルは常に次のリスクを内包している。
• 会計方針・文化が異なる企業を短期間で統合
• 現場主導での判断が増えやすい
• 本社の管理・監査機能が後追いになりやすい
特に海外子会社では、
「日本本社の基準よりも、現地の慣行を優先する」
という判断が積み重なりやすい。
成長スピードを最優先した結果、会計ガバナンスが後手に回った。
今回の問題は、この構造的歪みが顕在化した事例と捉えるのが自然だ。
永守重信という経営者の功と影

ニデックを語る上で、創業者である永守重信の存在は絶対的だ。
彼の経営スタイルは明快である。
• 高い数値目標
• 圧倒的なスピード
• 成果に対する厳格な評価
これらは、ニデックを世界企業へ押し上げた最大の原動力だった。
一方で、企業規模が巨大化した後も同じ圧力がかかり続けると、
「目標未達は許されない」
「数字を合わせることが最優先」
という空気が現場に生まれやすい。
トップが不正を指示していなくとも、現場が忖度し、会計判断を歪める土壌は形成され得る。
今回の事案は、個人の善悪ではなく、カリスマ経営の副作用として理解すべき側面が強い。
投資家が評価を下げた本当の理由

市場がこの問題に敏感に反応した理由は、「修正額が大きかったから」ではない。
むしろ重視されたのは、以下の点だ。
1. グローバル企業としての会計信頼性が揺らいだこと
2. 同様の問題が再発する可能性がある構造かどうか
3. 経営陣が問題を本質的に理解しているか
特に機関投資家や長期投資家にとって、
一度でも会計に疑義が生じた企業
は、リスクプレミアムを上乗せして評価せざるを得ない。
これは感情論ではなく、ポートフォリオ管理上の合理的判断だ。
その結果として、株価のディスカウントが発生した。
再発防止は可能か――今後の焦点

ニデックは、
• 外部調査委員会の設置
• 会計処理の修正
• 内部統制・監査体制の強化
といった対応を進めている。形式的には「是正済み」と言える。
しかし、より重要なのは次の問いへの答えだ。
• M&A中心の成長モデルをどこまで続けるのか
• 成長率を落としてでも管理を優先する覚悟があるのか
• 創業者依存から脱却できるのか
これは単なる会計問題ではなく、経営モデルの転換点である。
急成長する企業には必ずこういう問題がでてきますね。
これは日本に限らず米国企業でも起こり得ることです。
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まとめ
ニデックの不適切会計問題は、
「粉飾か否か」という単純な二項対立で評価すべき事案ではない。
これは、
• 急成長
• トップダウン
• M&Aドリブン経営
という成功モデルが、一定規模を超えた企業が必ず直面する構造的課題を示したケースだ。
投資家にとって本質的な問いは一つしかない。
この問題が「過去の是正」で終わるのか、
それとも「体質として残る」のか。
ニデックを見る目は、今後もこの一点に集約され続ける。
著者プロフィール

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投資家、現役証券マン、現役保険マンの立場で記事を書いています。
K2アドバイザーによって内容確認した上で、K2公認の情報としてアップしています。
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