投資商品を選ぶことも、バイオリンを選ぶことも、本質は同じだ。
世の中には「良いもの」が無数に存在し、それらをすべて比較し、完全に納得してから決断しようとする姿勢は、一見すると慎重で合理的に見える。しかし実際には、その姿勢こそが最大の非合理であり、行動を阻む最大の要因になる。
選択肢が増えれば増えるほど、人は決められなくなる。これは感覚論ではなく、行動経済学や心理学の世界では繰り返し証明されてきた事実だ。そして投資において「決められない時間」は、そのまま機会損失として積み上がっていく。
重要なのは、最初から完璧な選択をすることではない。まず行動し、実際に購入し、投資ならリターンを取り始めること。その一歩を踏み出さないコストの大きさを、正しく理解することだ。
そしてこの問題は、投資家側だけでなく、セールスやアドバイザー側にも同じように突きつけられている。
- 選択肢が多いほど、人は「動けなくなる」
- 投資における最大のコストは「踏み出さない時間」
- 選択肢は多くても「3つまで」に絞れ
- セールスやアドバイザーが陥りがちな「説明過多」の罠
- プロの仕事とは「責められるリスクを引き受けること」
選択肢が多いほど、人は「動けなくなる」

人は自由を好む一方で、選択肢が増えすぎると急激に判断力を失う。
投資商品の世界では、これは特に顕著だ。ファンド、保険、ETF、債券、オルタナティブ、国内外、通貨、手数料、税制…。情報を集め始めれば始めるほど、「まだ見ていない何かがあるのではないか」という不安が膨らんでいく。
その結果、多くの人は「もう少し勉強してから」「もう少し比較してから」と決断を先延ばしにする。しかし、その「もう少し」の間にも時間は確実に過ぎていく。市場は待ってくれないし、複利も止まらない。
選択肢を広げる行為そのものが悪いわけではない。問題は、広げ続けることを目的化してしまうことだ。
情報収集が行動の代替になった瞬間、人は自分が前進している錯覚に陥るが、現実には何も変わっていない。
投資における最大のコストは「踏み出さない時間」

投資の世界では、手数料や為替コスト、税金などがよく語られる。しかし、最も大きく、かつ見えにくいコストは「投資を始めなかった時間」だ。
たとえば、年率数%の違いを気にして1年悩み続けた結果、その1年間のリターンを丸ごと失う。これは決して珍しい話ではない。
しかも、投資は一度始めれば、途中で調整や入れ替えができる。最初の選択が100点である必要はない。60点でも70点でも、動き出していること自体が価値になる。
「完璧な商品を選べなかったらどうしよう」という不安は、多くの場合、後から修正できる事実を過小評価している。一方で、「何もしなかった時間」は、後から取り戻すことができない。
選択肢は多くても「3つまで」に絞れ

実務上、もっとも機能するルールはシンプルだ。
最終的な選択肢は、多くても3つまで。
3つあれば比較は可能で、かつ人間の認知負荷も限界を超えない。これ以上増えると、判断は理屈ではなく感情に支配され、結局「決めない」という選択に逃げることになる。
重要なのは、「すべてを見たうえで3つに絞る」のではなく、早い段階で切り捨てる基準を持つことだ。
自分の目的、許容リスク、時間軸。この3点に合わないものは、良し悪し以前に候補から外す。そうして残ったものの中から選べばいい。
これは妥協ではない。
むしろ、自分の人生や資金に対して責任を持つ行為だ。
セールスやアドバイザーが陥りがちな「説明過多」の罠

この問題は、提案する側にも同じように存在する。
「すべて説明しておかないと後で責められるかもしれない」「選択肢を絞ると、押し付けだと思われるかもしれない」。こうした不安から、あらゆる商品を並べ、あらゆる可能性を説明し、最終判断をすべて顧客に委ねる。
一見すると誠実に見えるが、実態は違う。
それは顧客のためではなく、自分が責められないための防御行為に過ぎないことが多い。
本当にプロフェッショナルであれば、自分の判断を提示する責任から逃げない。
リスクを理解したうえで、「自分はこれが良いと思う」と言い切る。そのうえで、相手の性格や価値観に合わせて、わかりやすく絞り、導く。
プロの仕事とは「責められるリスクを引き受けること」

プロフェッショナルとは、正解を保証する存在ではない。
むしろ、「現時点で最善だと思う選択肢」を提示し、その判断に自分の名前を乗せる存在だ。
もし結果が悪ければ、責められる可能性もある。しかし、そのリスクを引き受けない限り、顧客にとって本当に価値のある助言はできない。
選択肢を無限に並べることは、責任を分散させる行為であり、プロの仕事ではない。
顧客の時間的価値を守るために、あえて選択肢を削り、決断を後押しする。
それこそが、セールスやアドバイザーに求められる本質的な役割だ。
最終的には投資家自身の責任だと理解しているので、良い時も悪い時もアドバイスを頂ける方が信頼できますね。
弊社では国内、海外問わず、クライアントの資産状況やお考えに沿った本音のアドバイスをしています。アドバイスをご希望でしたら、下記のヒアリングシートに現在の状況やお考えを入力してください。
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まとめ
最適解を探し続ける姿勢は、しばしば行動しないための言い訳になる。
投資でも、人生でも、重要なのは「まず一歩を踏み出すこと」だ。
選択肢を広げすぎず、多くても3つに絞る。
完璧を目指すより、動き出す。
そして提案する側は、責められるかもしれないリスクを引き受け、相手のために判断を提示する。
成長は、常に「決めた人」から始まる。
決断を先延ばしにするコストの大きさを理解したとき、初めて本当の意味で前に進めるようになる。
著者プロフィール

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投資家、現役証券マン、現役保険マンの立場で記事を書いています。
K2アドバイザーによって内容確認した上で、K2公認の情報としてアップしています。
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