生命保険・損害保険業界には古くから「コンベンション(Convention)」と呼ばれる表彰・表彰旅行の文化が存在する。毎年、優秀な販売成績を挙げた営業職員や代理店が豪華な海外旅行や式典に招待され、華やかな舞台で表彰される光景は業界の伝統ともいえる。しかし、この「コンベンション文化」は本来「販売者の士気向上」として機能するはずが、実際には 短期的な販売至上主義を助長し、顧客本位の提案を歪める温床 となっている。
保険業界の「コンベンション文化」にはどのような問題があるのでしょうか?
華やかさの裏で何が起きているのか、その構造的な問題点を以下に整理します。
- 成績偏重主義による販売の歪み
- 短期インセンティブが長期関係を損なう
- 過剰接待・豪華演出による倫理的問題
- 若手営業マンへの誤った動機づけ
- 顧客本位経営(FID)との乖離
成績偏重主義による販売の歪み

コンベンションの参加資格は、多くの場合「新規契約件数」や「年間保険料収入額」に基づいて決まる。そのため営業職員は「とにかく契約を取ること」を最優先し、本来必要かどうかを十分に吟味せずに商品を販売する傾向が強まる。結果として、顧客のライフプランに合わない高額契約や長期積立型商品が押し込まれることになる。つまり、表彰基準そのものが販売至上主義を制度的に内在化している のである。
短期インセンティブが長期関係を損なう

保険商品は本来「長期の保障・資産形成」を目的とするが、コンベンションは「1年単位の販売成績」で評価する。これにより営業職員は「目先の数字」を作るために顧客に契約を急がせる傾向がある。たとえば「今月中に契約すれば特典がある」と強調したり、必要以上に高額な保険料を提案するなど、短期的な契約獲得が優先される。結果として、長期的な顧客関係よりも「1年の表彰」が優先され、顧客本位の長期的提案が犠牲になる。
過剰接待・豪華演出による倫理的問題

コンベンションは海外のリゾート地や高級ホテルで開催され、ゴルフ大会やパーティーなど華やかな演出が行われる。これ自体は販売者の努力を称えるものだが、業界外から見れば「高額保険料を原資とした豪遊」と映りやすい。特に日本では「保険料は生活者からの拠出金」であるため、その一部がこうした豪華イベントに使われていると知れば顧客の信頼を損ねかねない。さらに、コンベンションに参加するための「過剰契約」や「自爆契約(営業職員自身が契約する)」が横行することもあり、倫理的にグレーな慣習 が温存されている。
若手営業マンへの誤った動機づけ

若手営業マンにとって、コンベンションは「憧れの舞台」として強烈な動機づけとなる。しかしその動機は「顧客に必要な保障を届けたい」ではなく「豪華な旅行に参加したい」「表彰されたい」という販売者本位の方向に偏る。これにより、営業マンは「顧客満足よりも販売ノルマ」を追求する姿勢を強める。副業的に海外積立を販売する若手が「コミッション+コンベンション」を目指す現象もあり、業界全体が販売者インセンティブ優先で回っている実情 が浮かび上がる。
顧客本位経営(FID)との乖離

近年、日本の金融庁は「顧客本位の業務運営(Fiduciary Duty)」を保険会社にも求めているが、コンベンション文化はこの理念と真逆にある。顧客の利益ではなく「販売件数」が評価されるため、販売現場での行動は顧客利益と乖離する。また、金融庁や一部の先進的保険会社は「コンベンション基準の見直し」を進めているが、いまだに業界の多くでは存続しており、形を変えて「販売キャンペーン」や「達成旅行」として残っている。つまり、顧客本位経営と販売者本位文化のギャップ が埋まらないまま温存されているのである。
コンベンション文化は顧客に不利益となるのでしょうか?
販売至上主義が強化され顧客利益が犠牲となります。
まとめ
- 保険業界のコンベンション文化は、営業職員にとってモチベーションの源泉である一方で、販売至上主義・短期的契約偏重・過剰接待・倫理リスク・顧客本位経営との乖離 という構造的問題を抱えている
- 顧客から見れば「自分の保険料が誰かの表彰旅行に使われている」構図であり、業界の信頼を損なう要因にもなる
- 真に顧客本位を実現するためには、販売件数や保険料額ではなく、「顧客満足度」や「長期的継続率」など顧客利益を反映する基準 による評価へと転換が不可欠である
- 華やかなコンベンションの裏に潜む影を直視しない限り、保険業界の文化は時代に取り残され、顧客との信頼関係も揺らぎ続けるだろう
著者プロフィール

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投資家、現役証券マン、現役保険マンの立場で記事を書いています。
K2アドバイザーによって内容確認した上で、K2公認の情報としてアップしています。
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