「土地は価値を失わない」という安心感を武器に広がったランドバンキング投資。しかしカナダやタイを中心に、多くの投資家が夢と資金を託したものの、待っていたのは出口のない「塩漬け」と失望でした。
実際に報道や訴訟で明らかになった被害事例を見ていくと、華やかな宣伝文句とは裏腹に、制度的な壁、計画の遅延、販売会社の利益優先構造が浮き彫りになります。
どのような被害事例があったのでしょうか?
ここでは具体的な失敗例をたどりながら、その危険性を整理します。
- ① カナダ・オンタリオ州の「未来都市プロジェクト」の破綻
- ② カナダ・ブリティッシュコロンビア州での「環境保護区」問題
- ③ タイ・パタヤ郊外のリゾート開発が立ち消えに
- ④ タイ・バンコク郊外の工業団地構想の頓挫
- ⑤ 被害投資家の声 ― 「土地は残る」が最大の罠
① カナダ・オンタリオ州の「未来都市プロジェクト」の破綻

2000年代半ば、オンタリオ州トロント郊外の農地が「将来の住宅地指定エリア」として日本や香港の投資家に販売されました。パンフレットには高速道路の延伸計画や巨大ショッピングモールの完成予想図が並び、「10年で3倍の値上がり」を約束していました。
しかし、実際には都市計画の指定は行われず、農地のまま数十年が経過。現地では「都市計画の優先度が低い」と当初から指摘されており、投資家は完全に販売会社の言葉を信じ込んでしまった格好です。結果として土地は売却できず、維持費(税金や登記費用)だけが毎年かさみ、投資家たちは訴訟に踏み切りました。オンタリオ州の証券委員会も「事実上の不正販売」と認定し、複数の販売会社に罰金を科しました。
② カナダ・ブリティッシュコロンビア州での「環境保護区」問題

別の事例では、バンクーバー郊外の山林地帯が「将来の高級住宅地」として小口販売されました。日本やシンガポールからの投資家が参加しましたが、後にその土地が環境保護指定を受けていることが判明。建築は一切できず、転売先も見つからない状況に陥りました。
投資家は販売資料に「住宅開発予定」と明記されていたことから詐欺を訴えましたが、販売会社は「資料は将来の可能性を示したに過ぎない」と反論。法廷闘争は長引き、多くの投資家が資金をほぼ失いました。現地メディアは「海外投資家を狙ったランドバンキング詐欺」と大きく報じ、注意喚起が行われました。
③ タイ・パタヤ郊外のリゾート開発が立ち消えに

タイではパタヤやプーケット周辺でランドバンキングが盛んでした。ある案件では「5年以内に国際級リゾートホテルが建設される」とされ、欧州や日本の投資家から数十億円規模の資金が集まりました。投資家には分筆された土地の所有証書が配られ、「開発後はディベロッパーが買い取る」と説明されていました。
ところが、実際には政権交代でリゾート開発許可が取り消され、建設計画は白紙に。さらに、外国人は直接土地を所有できないため、名義を借りていた現地法人が倒産し、権利関係が宙に浮きました。結果、投資家は「所有権を証明できない土地」と「消えた販売会社」だけを残される事態となりました。
④ タイ・バンコク郊外の工業団地構想の頓挫

別のタイ案件では、日本企業の進出を狙った工業団地開発が売り文句となりました。販売側は「日系企業が必ず入居する」と宣伝し、多くの中小企業経営者や富裕層が投資。しかし、リーマンショック後の景気減速で外資企業の進出は取り消され、土地は未利用のまま放置されました。
加えて、投資家の土地は細分化されており、1人あたりの区画が小さすぎて個別売却は困難。全員がまとまらなければ買い手はつかないという仕組みが、出口をさらに難しくしました。最終的には開発会社が消滅し、投資家は数百万〜数千万円単位の損失を抱えたまま泣き寝入りとなりました。
⑤ 被害投資家の声 ― 「土地は残る」が最大の罠

実際に被害に遭った投資家は口を揃えてこう語ります。
• 「現地を見に行ったら荒れ地が広がっていただけだった」
• 「パンフレットには空港と高速道路の完成予想図が描かれていたのに、工事すら始まっていなかった」
• 「土地は確かに登記されているが、誰も買ってくれない」
この「土地は存在するが、換金できない」という構造こそランドバンキング最大の罠です。株式や債券のように市場で売却できず、出口が販売会社のストーリー頼みである以上、投資家に残るのは紙切れの証書と維持費だけです。
ランドバンキングで失敗する理由はなんですか?
出口が不明確で売却できないためです。
まとめ
- カナダやタイで展開されたランドバンキング投資は、数多くの投資家を巻き込みながら、その多くが失敗に終わっています
- カナダでは都市計画の指定が行われず、農地や山林がそのまま放置。訴訟や規制当局の処分も発生
- タイでは土地所有規制や政治リスクが壁となり、リゾートや工業団地の計画が立ち消え。投資家は法的に所有権すら危うい状況に
- 共通点は「販売時点で業者が利益確定」「投資家には出口がない」という構造
著者プロフィール

-
投資家、現役証券マン、現役保険マンの立場で記事を書いています。
K2アドバイザーによって内容確認した上で、K2公認の情報としてアップしています。
最近の投稿
コラム2025年12月15日利上げ局面でも日本国債が買われる理由 ──日本市場特有の需給構造と投資家心理の変化
コラム2025年12月12日英国王室は本当に世界最大の地主なのか ― 誤解の構造と土地制度の真実
コラム2025年12月10日居住地が生む“リテラシー格差”──年収・資産だけでは測れない思考の違い
コラム2025年12月10日プルデンシャル生命に見る営業モデルの功罪 ― 自社製品中心・MDRT偏重・高コミッション構造の問題点
この投稿へのトラックバック: https://media.k2-assurance.com/archives/33278/trackback





















