日本人投資家を狙ったランドバンキング商法 ― 実名事例から見る失敗の軌跡

「土地だから安全」「必ず値上がりする」という甘い言葉に誘われ、多くの日本人投資家がカナダやタイを舞台とするランドバンキングに資金を投じました。販売業者は華やかなパンフレットと将来の都市開発計画を提示し、分筆された土地を小口で販売。しかし実際には都市計画指定が行われず、資産価値はほぼゼロ、出口戦略も存在しないという結末に終わった例が相次いでいます。

日本の投資家はランドバンキングでどのような被害にあったのでしょうか?

ここでは実際の販売会社名を含む事例を紹介し、日本の投資家がどのように巻き込まれたのかを検証します。

  • ① カナダ・オンタリオ州案件 ― アーバンコーポレーション系の販売網
  • ② カナダ・ブリティッシュコロンビア州 ― ウェストポイント・グループ案件
  • ③ タイ・パタヤのリゾート開発 ― アジアンダイナスティ社のケース
  • ④ タイ・工業団地計画 ― Jリゾート・グループの頓挫
  • ⑤ 日本国内の販売業者と勧誘手法

① カナダ・オンタリオ州案件 ― アーバンコーポレーション系の販売網

2000年代、日本の投資家に向けて「カナダ・トロント郊外の土地が10年で倍増」として販売されたのがオンタリオ州の農地案件です。日本ではアーバンコーポレーション関連の販売代理店や独立系FPが仲介。パンフレットには高速道路や空港の完成予想図が示され、都内ホテルでのセミナーでは「トロント市の公式都市計画」と説明されました。

実際には市の指定を受ける見込みはなく、農地としてのまま20年以上が経過。投資家の多くは一口数百万円を失い、毎年数万円の固定資産税支払いだけが続く状況となっています。現地ではこの案件をめぐり、オンタリオ州証券委員会(OSC)が「誤解を招く販売手法」として調査を行いましたが、販売会社はすでに解散済み。日本側でも訴訟が起きましたが、資金回収は困難でした。

② カナダ・ブリティッシュコロンビア州 ― ウェストポイント・グループ案件

バンクーバー郊外で販売された山林地帯案件では、現地デベロッパー**Westpoint Investment Inc.が主体となり、日本国内では株式会社日本アジア投資(当時の子会社ルート)**などを通じて個人富裕層に販売されました。セミナーでは「将来必ず住宅地になる」と宣伝されましたが、実際には環境保護指定地域で建築不可。

日本の投資家は「所有権証明書」を受け取ったものの、現地で開発が不可能と判明。売却もできず、投資額のほとんどを失いました。訴訟で「誇大広告」と主張されましたが、現地では「将来の可能性を示したにすぎない」と処理され、被害者救済には至りませんでした。

③ タイ・パタヤのリゾート開発 ― アジアンダイナスティ社のケース

タイでは、バンコクやパタヤの開発案件を扱った**Asian Dynasty Co., Ltd.(アジアンダイナスティ社)**が日本の投資家をターゲットにしました。国内では東京・大阪の販売代理店がセミナーを開催し、リゾートホテル建設予定地として一口200万円からの小口投資を募集。

「数年後にはリゾート会社が買い戻す」と説明されたものの、開発許可は下りず、建設は頓挫。さらに、外国人が土地を直接所有できないタイ法の規制を販売側は意図的に説明せず、名義借りしていた現地法人が倒産したことで投資家の権利は消失しました。結果として、数百人規模の日本人が数千万単位の損失を被ったと報じられています。

④ タイ・工業団地計画 ― Jリゾート・グループの頓挫

もうひとつの典型的な事例が、**J Resort Group(ジェイリゾート・グループ)**が販売したバンコク郊外の工業団地案件です。パンフレットでは「日系大手メーカーが進出予定」「日本政府のODAも支援」と説明され、多くの中小企業経営者や開業医が顧客となりました。

しかし、リーマンショック後に外資企業の投資が凍結され、開発計画は立ち消え。区画が極端に細分化されていたため転売もできず、事業主体であるJ Resortが解散。日本の販売代理店も倒産しており、被害者は消費者庁や金融庁に相談しましたが、法的には「自己責任」とされ、ほぼ全損という結果に終わりました。

⑤ 日本国内の販売業者と勧誘手法

ランドバンキング案件を日本に持ち込んだのは、主に独立系FP事務所、外資系保険代理店、海外不動産仲介業者です。彼らは次のような手口で投資家を勧誘しました。
• ホテルセミナーで「海外都市開発セミナー」と銘打ち、未来都市の完成予想図を提示。
• 「日本円のままではインフレに負ける」と危機感を煽り、「土地なら必ず残る」と説得。
• 一口数百万円から投資可能とし、相続税対策や分散投資を強調。
• 販売直後に高額の手数料(20〜30%)を受け取り、以降の開発リスクは投資家任せ。

この「販売時点で販売会社は利益を確定させ、投資家だけがリスクを負う」という構造こそが問題の核心です。

どのような投資家が、どれくらいの被害にあったのですか?

被害者は医師、経営者、公務員、退職金を得た高齢者まで幅広く、損失は数百万円から数千万円規模に及びました。

金融庁や消費者庁は注意喚起を出していますが、既に破綻した案件では資金回収はほぼ不可能です。

まとめ

  • カナダやタイのランドバンキング案件に巻き込まれた日本人投資家は少なくありません。
  • • カナダ案件では都市計画指定の見込みがない土地を「未来の住宅地」として販売。
  • • タイ案件では土地所有規制や政変リスクを無視して「リゾート開発」や「工業団地構想」を売り文句に。
  • • 共通点は、販売会社が巨額のコミッションを即時確保し、投資家は出口戦略を持たないまま放置されたこと。

著者プロフィール

K2編集部
K2編集部
投資家、現役証券マン、現役保険マンの立場で記事を書いています。
K2アドバイザーによって内容確認した上で、K2公認の情報としてアップしています。

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