新型コロナウイルス禍で急場をしのぐために導入された実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」が、2024年から2025年にかけて本格的な償還局面を迎えている。据置期間や借換保証の満了に伴い、元本返済が始まった企業の間で資金繰り難が顕在化し、倒産件数に波が表れ始めた。帝国データバンク(TDB)の集計では、2025年上半期のゼロゼロ融資利用後倒産は316件と前年同期比19.2%減少し、東京商工リサーチ(TSR)の統計でも210件と14カ月連続の前年割れ。しかし、これは「一時的な谷間」との指摘が多く、業種ごとに返済負担の本番はこれからやって来る。背景には、人手不足や物価高、金利上昇といった複合的な経営環境の悪化があり、コロナ期の延命策が終わることで事業基盤の脆弱な層から崩れが進む構図だ。
コロナ融資の返済を迎えて倒産が増えているとのことですが。
以下では、主要業種ごとに倒産増加の要因と今後の見通しを分析します。
- 小売・飲食業――需要回復下でも粗利圧迫が続く
- 建設業――資材高・人手不足・工期遅延の“三重苦”
- 製造・卸売業――価格転嫁の遅れと在庫負担が重荷
- サービス業――広告・宿泊で返済本番はこれから
- 小規模事業者・地域経済――選別のフェーズへ移行
小売・飲食業――需要回復下でも粗利圧迫が続く

倒産件数最多は小売業の66件。なかでも飲食店が31件、飲食料品小売が14件と“食”関連が目立つ。コロナ後の外食需要や観光需要は回復しているものの、原材料費、光熱費、人件費の上昇が粗利益を削り、返済余力を奪っている。低価格帯外食や個人経営店舗では価格転嫁が難しく、客数回復分が利益に結びつかないケースが多い。人手不足も深刻で、営業時間短縮や休業を余儀なくされ、売上の回復を阻む要因となっている。さらに、賃料高やフードロス管理など固定費の負担増も加わり、返済開始が直撃する構造だ。
建設業――資材高・人手不足・工期遅延の“三重苦”

建設業の倒産は62件。ウッドショックや鋼材価格高騰が落ち着かぬ中、職人不足が常態化し、工期の長期化が資金繰りを圧迫している。公共工事では入札不調や辞退が相次ぎ、下請け企業の受注環境が悪化。ゼロゼロ融資で運転資金を確保していたが、据置終了後に元金返済と資材仕入れの資金需要が重なり、資金ショートに陥る事例が多発している。とりわけ、元請けからの支払いサイトが長く、前払金や出来高払いが遅れる構造的問題が、返済本格化の局面で致命傷になっている。
製造・卸売業――価格転嫁の遅れと在庫負担が重荷

製造業では60件、卸売業では59件の倒産が発生。食料・飲料、繊維・衣料などの業種で顕著だ。為替の円安基調に伴う輸入コスト増や川上からの値上げ要請を十分に販売価格へ転嫁できず、粗利率が低下。加えて、小売側が在庫圧縮や発注短縮に動く中、製造・卸双方で在庫が滞留し、運転資金を圧迫している。ゼロゼロ融資による資金繰りは短期的な延命に寄与したが、返済が始まれば在庫資金と元金返済の二重負担が重くのしかかる。特に季節商品や流行依存型の商品を扱う事業者では、在庫評価損リスクが高まっている。
サービス業――広告・宿泊で返済本番はこれから

サービス業では、広告・調査・情報サービスの倒産が23件と最多。広告市況の変動や生成AI対応などの新規投資が固定費負担を高め、資金流出が先行している。売上変動が大きい業態では、繁忙期と返済スケジュールが合わない場合、資金繰りのひっ迫が急速に進む。また、宿泊業はコロナ借換保証や条件変更で返済開始を先送りしてきた事例が多く、2025~26年に返済本番を迎えると見込まれる。観光需要の回復に乗れなかった地方の中小旅館・ホテルは、人件費増や設備投資負担が重く、延命の余地が限られている。
小規模事業者・地域経済――選別のフェーズへ移行

ゼロゼロ融資後倒産の多くは負債5,000万円未満の小規模事業者。2024年度のゼロゼロ後倒産は529件、累計では2,000件超に達している。コロナ借換保証の据置期間は8割が2年以内で、今夏から2026年前半にかけて返済ピークが続く見通しだ。2025年4月以降は「経営改善サポート保証(再生強化型)」へ移行し、据置は最長3年に短縮。計画策定や金融機関・専門家との連携が必要になるため、資金繰り支援は「選別」の色合いを強める。金融機関の与信姿勢も慎重化しており、プロパー融資や追加担保の調達が困難な先は、返済開始と同時に淘汰されるリスクが高い。
ゼロゼロ融資返済は今後も増えるのでしょうか?
2025~2026年に本格化しますから、今後は淘汰も加速するでしょうね。
まとめ
- ゼロゼロ融資償還をめぐる倒産動向は、全体としては減少傾向を見せつつも、業種や事業規模によって返済本番の時期が異なり、今後の局面は二極化が進むとみられる
- 小売・飲食や建設、製造・卸の一部業種はすでに返済負担の影響が顕著で、宿泊など一部サービス業は2025~26年に山場を迎える
- 背景には、人件費・原材料費高騰、為替変動、金利上昇といった外部要因と、価格転嫁力や在庫回転率、稼働安定性といった企業内部の競争力差が絡み合う
- これからの資金繰り環境は、単なる延命策から計画的な経営改善への移行が不可欠だ
- 金融機関には伴走型の再生支援、事業者には資金繰りの再設計と収益力強化が求められており、返済局面は日本の中小企業の体力を測る試金石となる
著者プロフィール

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投資家、現役証券マン、現役保険マンの立場で記事を書いています。
K2アドバイザーによって内容確認した上で、K2公認の情報としてアップしています。
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