2025年9月末、英国ロンドンのサザーク刑事法院で、中国籍女性 Zhimin Qian(別名 Yadi Zhang)が暗号資産を利用した資金洗浄で有罪を認めた。押収されたのは約 61,000ビットコイン(BTC)、現在の推定価値は 50~55億ポンド(約9,500億~1兆450億円) に達するとされる。これは英国史上最大規模の押収であり、世界的に見ても突出した事例である。
本件は単なる詐欺事件にとどまらず、仮想通貨の匿名性や国境を越えた資金移動の特性を利用した新型犯罪の象徴であり、司法制度、国際的な資産回収スキーム、暗号資産規制強化の方向性を占う重要事件となった。
資金洗浄でこの金額は凄いですね。
捕まった当時から比較するとBTCの価値が大きく上昇したことが要因ですが、それだけ価値が上がるものには投資をしておきたいですね。
- 巨額押収に至った経緯と事件の全貌
- 被告と共犯者たち ― 組織的洗浄スキーム
- 英国司法制度と暗号資産没収の課題
- 中国との外交的摩擦と被害者保護
- 規制強化と今後の国際的示唆
巨額押収に至った経緯と事件の全貌

事件の発端は2014年から2017年にかけて中国で行われた大規模投資詐欺である。Qianは「高利回りを保証する」として数十万人規模の投資家から資金を集め、その資金をビットコインに換えて国外に移転。被害者は少なくとも 12万人以上 とされる。
2017年、彼女は偽造パスポートで中国を脱出し英国へ。ロンドン郊外の高級邸宅を拠点に暗号資産を管理していた。2018年に警察が家宅捜索を行い、ウォレットや関連デバイスを押収。その後の解析で61,000BTCが確認され、押収時点の価値は 14億ポンド(約2,660億円) 前後と見積もられた。
しかし2025年現在、ビットコイン価格の上昇により価値は5倍近くに跳ね上がり、50~55億ポンド(約9,500億~1兆450億円) に達している。
被告と共犯者たち ― 組織的洗浄スキーム

Qianの活動は単独ではなく組織的であった。
• Jian Wen:彼女の「秘書役」とされる人物で、ビットコインを不動産や宝飾品に換える役割を担った。少なくとも150BTC(現在価値で約 170億円)を資金洗浄したとして、2024年に懲役 6年8か月 の実刑判決を受けている。
• Seng Hok Ling:Qianの“バトラー”として資金移転や生活支援を担当。英国裁判所でマネーロンダリング罪を認めた。
これら共犯者の存在は、Qianが複数の協力者を使い国際的な資金移動を行っていたことを示している。
英国司法制度と暗号資産没収の課題

英国は「犯罪収益法(POCA 2002)」に基づき犯罪収益の没収が可能だが、暗号資産の価格変動は大きな課題を生む。
• 押収時(2018年)価値:14億ポンド(約2,660億円)
• 現在価値(2025年):50~55億ポンド(約9,500億~1兆450億円)
このどの時点を基準に没収・返還を行うのかが裁判上の重要論点となる。押収時の価値で処理すれば被害者の補償は大幅に不足し、現在価値で処理すれば英国側に大きな負担が発生する。
さらに、秘密鍵の管理や取引所との協力など技術的問題も浮上しており、英国司法制度にとって前例のない難題となっている。
中国との外交的摩擦と被害者保護

被害者の多くは中国国内の投資家であり、失った資金の返還を求める声が高まっている。中国政府は英国に対し「被害者優先での返還」を求める可能性が高い。一方、英国政府には押収資産を国庫に組み入れる選択肢もあり、外交摩擦の火種となり得る。
仮に被害者に返還する場合でも、押収時の価値(約2,660億円)を基準にすれば不足、現行価格(約1兆円)を基準にすれば英国の裁量が大きすぎる。このジレンマは、暗号資産という“ボラティリティ資産”特有の難題である。
規制強化と今後の国際的示唆

この事件は国際的な暗号資産規制強化を加速させると考えられる。
1. 犯罪収益認定の明確化
どの時点で仮想通貨が「犯罪収益」と見なされるかを明文化する必要。
2. AML規制の強化
取引所・ウォレット業者に対し、KYCや資金源確認の義務を強化。
3. 国際協力体制の拡充
ブロックチェーン解析技術を各国が共有し、国際的な資産追跡網を形成。
4. 被害者返還スキームの整備
価格変動をどう考慮するか国際的なルールを設ける必要がある。
5. 抑止効果の明確化
今回の有罪認定は「仮想通貨を使っても犯罪は隠し通せない」という強いメッセージを発する。
便利なものなので世の中の為になることに活用してほしいです。
便利な一面が犯罪に使われるのはよくある話ですね。
まとめ
- 「世界最大級の暗号資産押収事件」は、61,000BTCという桁外れの規模で、英国史のみならず世界の金融犯罪史に刻まれる事案
- 被害総額は 50~55億ポンド(約9,500億~1兆450億円) に達し、中国での詐欺被害者と英国司法制度、両国政府の間で複雑な利害対立を引き起こしている
- 暗号資産の匿名性と越境性は犯罪者に魅力的な逃げ道を与える一方、国家による追跡と押収も可能である
- この事件を契機に各国でAML・KYC規制が強化され、国際的な返還制度が模索されるだろう
- 本件は「仮想通貨は犯罪者の楽園ではない」と世界に知らしめ、国際金融秩序の新たな方向性を示す象徴的事件として記録される
著者プロフィール

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投資家、現役証券マン、現役保険マンの立場で記事を書いています。
K2アドバイザーによって内容確認した上で、K2公認の情報としてアップしています。
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