なぜ人は「真実ではないもの」を信じるのか?

人間は理性的存在であると同時に、強い感情の影響を受ける生き物です。歴史を振り返れば、宗教的信仰や王権神授説から、ブランド神話、芸能人のカリスマ性、さらにはSNS時代の情報バブルまで、常に「事実ではないが信じたい物語」に群がってきました。現代においては、エルメスなどのブランドに象徴される高級消費文化、K-POPや韓国ドラマといった大衆娯楽、インスタやYouTubeショートといったSNSの断片的な映像世界が、その役割を果たしています。
これらを安易に信じてしまう人には、ある種の共通する心理的傾向や社会的背景が存在します。それを明らかにすることで、現代人の心のあり方や社会構造の危うさが見えてきます。

  • アイデンティティの空白と外部依存
  • カルト的魅力の共通構造
  • 感情優位と判断の脆弱さ
  • 確証バイアスと情報の温室構造
  • 経済的循環と「消費される人々」

アイデンティティの空白と外部依存

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現代社会において、多くの人が自分自身の価値やアイデンティティを確立しきれずにいます。仕事や家庭、学歴や収入といった指標だけでは、人間の存在意義を十分に満たせないのです。そこで、人は「自分を外部に投影できる対象」を求めます。宗教であれば神や教義、ブランドであればロゴや歴史、K-POPや韓国ドラマであればアイドルや登場人物、SNSでは「いいね!」や再生数がその役割を果たします。
安易に信じてしまう人は、自己の不安定さを外部の象徴に委ねる傾向が強く、「自分が特別であることを確認する手段」としてそれらを活用します。例えば、エルメスのバッグを持つことで社会的地位を保証されたように感じたり、推しアイドルを応援することで自分も成功物語の一部になった気分になるのです。

カルト的魅力の共通構造

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宗教・ブランド・エンタメ・SNSには「カルト的魅力」の構造が共通しています。
第一に「物語」。宗教には神話や経典、ブランドには創業者や職人の物語、K-POPには練習生からスターへの成長ストーリーが存在します。第二に「カリスマ」。宗教には指導者、ブランドにはデザイナー、K-POPにはアイドルが象徴的存在として立ち現れます。第三に「共同体」。信者コミュニティ、ブランド愛好家クラブ、ファンダム、フォロワー集団が連帯感を提供します。
これら三要素が揃うことで、人は「自分もこの物語の一部になれる」という心理的報酬を得るのです。特に孤独感や社会的疎外感を抱える人ほど、強烈にこの構造に引き込まれます。

感情優位と判断の脆弱さ

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安易に信じやすい人の特徴は、論理的検証よりも感情を優先することです。宗教的儀式の荘厳さ、ブランド広告の美しさ、K-POPの華麗なパフォーマンス、韓国ドラマの涙を誘う脚本、SNSの共感を呼ぶ短いストーリーは、いずれも人の感情を揺さぶります。その瞬間、脳内ではドーパミンやオキシトシンといった快楽・絆のホルモンが分泌され、「これは正しい」「信じるに値する」という錯覚を生みます。
結果として、事実かどうかではなく「信じたいかどうか」が判断基準になり、批判的思考が働きにくくなります。これは詐欺や陰謀論にも共通する心理であり、SNSのアルゴリズムがそれを助長しています。

確証バイアスと情報の温室構造

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YouTubeショートやインスタのアルゴリズムは、視聴者が好む情報を次々に提示し、似た世界観に浸らせ続けます。宗教やブランドの世界も同様に、既に信じている人たちの間で「やっぱり正しい」と相互強化が進みます。この構造は「エコーチェンバー」や「フィルターバブル」と呼ばれ、一度入り込むと抜け出しにくい温室のような環境を作り出します。
結果として、人々は自分が信じたい物語をさらに強化し、外部からの批判や異論を排除するようになります。これが狂信的ファンダムやブランド至上主義、宗教的排他主義を生み出す温床となります。

経済的循環と「消費される人々」

循環マークイラストのフリー素材|イラストイメージ

忘れてはならないのは、これらの構造の裏には経済的な仕組みが存在することです。宗教には献金や布施、ブランドには高額な商品購入、K-POPや韓国ドラマにはアルバム・グッズ・配信課金、SNSには広告収益が流れ込みます。つまり「信じる人々」は精神的な満足を得ると同時に、資本主義的には「消費される人々」となります。
特に安易に信じる人ほど批判的思考が働かず、過剰に課金や消費に走りやすい。これは彼らを単なるファンや信者にとどめず、経済システムの中で利用される存在にしてしまうのです。

まとめ

  • 信じる力と批判的思考のバランス
  • 宗教、ブランド、K-POP、韓国ドラマ、SNS動画──そのどれもが人々に夢や希望を与える点では決して否定すべきものではありません。
  • むしろ「物語を信じる力」こそ人類が困難を乗り越えてきた原動力でもあります。しかし、安易に信じすぎれば、自己喪失や搾取のリスクを背負います。
  • 重要なのは、感情に心を委ねつつも批判的思考を保持するバランスです。ブランドを楽しむのはいいが、それで自分の価値を測らないこと。
  • K-POPやドラマに夢中になるのはいいが、それを「現実の真実」と混同しないこと。SNSで共感するのはいいが、情報の裏を一度は確かめること。
  • 結局、人が求めているのは「真実」そのものではなく「生きる意味の実感」なのかもしれません。
  • だからこそ私たちは、信じる対象を選ぶ際に自らの主体性を保ち、流されるのではなく「信じるに値するか」を考える習慣を持つ必要があるのです。

著者プロフィール

K2編集部
K2編集部
投資家、現役証券マン、現役保険マンの立場で記事を書いています。
K2アドバイザーによって内容確認した上で、K2公認の情報としてアップしています。

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