相続時精算課税制度とは、親(贈与者)から子や孫(受贈者)への贈与について、贈与時には一定額まで非課税とし、贈与者の死亡時に相続税としてまとめて精算(課税)する制度です。
通常の贈与税では年間110万円を超えると贈与税が課されますが、この制度を選択すると、2,500万円までの贈与が非課税になります(ただし、将来の相続時にそれを含めて課税対象とする)。
制度の本質:贈与税を「繰り延べ」、相続税で一括精算する方式
- 【制度の使い方】申告手続きと適用条件
- 【メリットと活用例】
- 【注意すべき点(落とし穴)】
- 【制度の背景と狙い】
- 【まとめ】
【制度の使い方】申告手続きと適用条件

●適用条件(2025年現在)

【メリットと活用例】

①まとまった資産を一気に移転できる
通常の贈与では110万円の非課税枠しかないため、大きな資産移転には不向きですが、この制度なら2,500万円まで非課税で移せます。不動産の生前贈与などに特に有効。
例:住宅資金や賃貸物件、事業用資産などを早期に子世代へ移転し、相続時の紛争防止や承継準備に活用。
②贈与財産の将来的な値上がり益を回避できる
贈与時の価格で相続財産に加算されるため、値上がりしそうな資産を早めに贈与することで、将来の相続税評価額を抑えることが可能。
例:値上がりが見込まれる土地や株式を早めに移転し、相続時に低評価で精算。
③贈与者の生前管理意識を高める
“死後”ではなく“生前”に資産の移転を意識できるため、節税に加え、家族間の資産承継計画を具体化しやすくなります。
【注意すべき点(落とし穴)】

①一度選ぶと「暦年課税」に戻れない
相続時精算課税を選択すると、その贈与者との間では以後の贈与すべてにこの制度が適用され、毎年110万円まで非課税の「暦年贈与」は使えなくなります。
落とし穴:贈与回数や金額が少ない場合、むしろ不利になる可能性あり。
②相続時に「すべて」相続財産として課税される
非課税だった2,500万円分も含め、贈与時の価額で「相続財産に合算」され、相続税が課されます。あくまで“税の繰り延べ”に過ぎず、節税効果は限定的。
誤解注意:「非課税=無税」ではない!
③不動産などは評価額と実勢価格にギャップが出ることも
贈与時と相続時で地価などが変動すると、課税される価格(固定)と市場価格(変動)にギャップが生じる可能性があります。
例:贈与時に2,000万円だった土地が相続時に5,000万円の価値になっても、2,000万円で評価。
④相続発生前に贈与者が破産・離婚・認知症などでトラブルになるリスク
贈与後に贈与者の意思能力が喪失した場合(認知症等)、争族リスクが増えることも。
⑤不動産登記費用や登録免許税がかかる
不動産の贈与には登記費用や不動産取得税、登録免許税(固定資産税評価額×2%)がかかります。相続時と比べて割高になるケースも。
【制度の背景と狙い】

相続時精算課税制度は、2003年の税制改正で導入されました。背景には以下の政策目的があります:
• 資産の早期移転を促進し、次世代への資産循環を促す
• 高齢者に偏在する富の流動化(生前贈与による活用)
• 相続税対策としての過度な暦年贈与を抑制する
特に、日本の高齢者層が大量の資産を保有しており、子世代が住宅取得や教育資金に苦労している社会的背景を踏まえ、「生前贈与による経済活性化」を狙った政策とも言えます。
【まとめ】

相続時精算課税制度は、「節税」というよりも「早期の資産承継」のための制度です。制度の特徴とリスクを整理すると次の通りです:

▶ 活用に向いている人
• 高齢の親がまとまった資産(不動産・自社株など)を子に移したい
• 相続税対策というより、承継トラブルを避けるために生前に決めたい
• 相続財産が基礎控除内であり、相続税の心配が少ない
▶ 活用を慎重にすべき人
• 暦年贈与でコツコツ移転している人(制度切替は不可逆)
• 贈与後に資産価値が急落・急騰する可能性がある人
• 不動産登記コストを重視する人
まとめ
- 最後に重要なのは、「精算課税制度は節税策ではない」という視点です。
- むしろ相続税の先送りに過ぎず、税負担を把握したうえで使わないと損をするケースもあります。
- 活用を検討する際は、贈与税と相続税の両面から比較し、税理士等の専門家と相談の上で選択することが不可欠です。
著者プロフィール

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投資家、現役証券マン、現役保険マンの立場で記事を書いています。
K2アドバイザーによって内容確認した上で、K2公認の情報としてアップしています。
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