Sakana AI――「ソブリンAI」開発を通じて日本発モデルが描く次のAI地図

総論 ― 国内発AIの転換点と「魚群知性」からソブリンAIへ

AI開発の潮流は、米国・中国を中心とする巨額資源投入型の超大型モデル競争へと急速に傾いていた。しかし、資源制約、エネルギー効率、文化的適合性などの観点から、代替のパラダイムを模索する動きも活発化している。その中で、東京を拠点とする Sakana AI は、「魚群のように協調・競争・進化するモデル群」という自然界からの着想を軸に、 “ソブリンAI(国家・文化・価値体系に根ざしたAI)” を志向する日本発のチャレンジとして注目を集めている。

2025年11月時点で同社がシリーズBラウンドで約200億円の調達を実施し、調達後の評価額(企業価値)が約4,000億円に達したという情報が報じられており、累計調達額も約520億円にも及ぶ。  この数字は、日本国内のAIスタートアップとしては画期的な規模であり、まさに「国内発・世界挑戦」の象徴となっている。

以下、Sakana AI の背景、技術、資金・提携、社会インパクト、今後の課題という五つの観点から整理する。

  • 創業の背景と思想 ― 「魚群知性」によるモデルの進化と日本らしさ
  • 資金調達と産業提携 ― 国内最速級ユニコーン級スタートアップの実現
  • 社会インパクト ― 日本発AIが世界に問いかける構造転換
  • 技術的ブレークスルー ― 進化的モデルマージ&集合知アーキテクチャ
  • 課題および今後の展望 ― 研究・実装・グローバル化の三段階をどう乗り切るか

創業の背景と思想 ― 「魚群知性」によるモデルの進化と日本らしさ

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Sakana AI は 2023 年(7月設立と伝えられる)に東京で設立され、共同創業者には David Ha(元 Google Brain/Stability AI)、Llion Jones(「Attention Is All You Need」共著者)、および Ren Ito(元外務省職員・メルカリ執行役)らが名を連ねている。 

社名 “Sakana(魚)” の由来には、魚が単体ではなく“群れを成して協調・変化・進化”するという自然のメタファーが込められており、同社はこの思想をAIモデル設計に応用しようとしている。つまり、
• 巨大モデル1本ではなく、
• 多様なモデルが相互に影響し合いながら、
• 進化的に最適化されていく体系を目指す。

こうした設計思想は、特に「日本的な産業・社会構造」(最適化、小規模多様分散、協調の文化)と親和性が高く、AI開発の方向性として興味深い。従来の「巨大モデル=唯一解」という思想からの脱却を図るものでもある。

技術的ブレークスルー ― 進化的モデルマージ&集合知アーキテクチャ

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Sakana AI の技術的柱は、「進化的モデルマージ(Evolutionary Model Merge)」と「集合知型モデル群アーキテクチャ」にある。

具体的には、既存の複数モデルを「交配・淘汰・融合」させることで、より高性能かつ効率的なモデルを生み出すという手法を開発しており、これは自然選択や遺伝的アルゴリズムの発想をAI設計に取り込んだものとも言える。 

また、同社が掲げる「AI Scientist」と呼ばれるシステムは、仮説立案・実験設計・分析までを自律的に回す研究エージェントの構想で、AI自身で“研究を進化させる”というメタ研究の一形態だ。 

さらに、Sakana AI は「ソブリンAI」開発に注力しており、英語圏・米中モデルのままでは捉え切れない「日本固有の文化・価値・言語」「国・地域ごとの規範」をモデルに反映する方向性を明確に掲げている。  これは、単なる汎用AIではなく、地域・国家レベルでの適用性・主権性を持つAI(sovereign AI)という文脈であり、世界的に見ても新しい挑戦である。

資金調達と産業提携 ― 国内最速級ユニコーン級スタートアップの実現

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資金調達・評価額の観点から、Sakana AI の成長スピードは日本企業として特筆に値する。2025年11月時点で、同社はシリーズBラウンドで 約200億円 の資金調達を実施し、調達後の評価額は 約4,000億円 に達したと報じられている。  また、累計調達額は約 520億円 とされている。 

出資先には、国内外の著名 VC や戦略投資家が入り、具体的には三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)や Khosla Ventures、Lux Capital、Macquarie Capital、米政府系 In-Q-Tel などが参画しているとされる。 

産業連携面でも、金融・防衛・製造といった日本の基盤産業との提携が進んでいる。例えば、金融分野では MUFG や大和証券グループとの戦略的パートナーシップが報じられており、AIの実運用を視野に入れた連携が特徴である。 

このように、資金・提携・評価額という三拍子が揃っており、日本発AIスタートアップとして “ユニコーン” を通り越して “デカコーン(評価額数千億円級)” へと足を踏み入れつつあることが読み取れる。

社会インパクト ― 日本発AIが世界に問いかける構造転換

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Sakana AI の意義は、単に資金・評価額が大きいというだけではない。むしろ、AI産業構造に対して以下のような転換を提示している点が重要である。

① 巨大モデルに依存しない持続可能なAI開発

従来、AIモデルの性能を上げるためには “パラメータ数の爆発的増加” と “大量データ・計算資源の投入” が常識だった。しかしそれは、電力消費、環境負荷、開発参入障壁という課題を内包していた。Sakana AI は「モデルを進化させていく」ことで、資源を抑えながら性能を追求するという代替の道を示している。 

② 多様モデルが協働する集合知としてのAI

巨大モデル1体で万能を目指すのではなく、用途特化・専門モデルが相互に補完し合う集合体として設計する。これは、AIを人間の専門組織のように捉える発想であり、魚群メタファーをそのまま技術ビジョンに落とし込んでいる。結果として、柔軟性・応答性・効率性が同時に高まる可能性がある。

③ 日本固有の文脈に根ざした「ソブリンAI」

欧米や中華圏で訓練された汎用モデルでは、日本語・文化・価値観・ビジネス習慣を十分に反映しきれないケースがある。Sakana AI はこの「暗黙知ギャップ(業務・文化・規範に根ざした知見をAI化する難しさ)」を直視し、日本企業・行政・社会インフラ向けに最適化された AI を目指している。 

④ 世界展開の新たな軸を生む可能性

日本発スタートアップが「評価額千億円規模」「国内産業直結」「研究‐実装ハイブリッド」という三つを備えて成長しているという点は、世界のAI競争において“サプライチェーンの多様化”を促すと同時に、“地域主権AI(sovereign AI)”というテーマを浮かび上がらせている。

課題および今後の展望 ― 研究・実装・グローバル化の三段階をどう乗り切るか

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Sakana AI が提示するビジョンに対して、以下のような課題と展望が浮かび上がる。

(1)技術成熟と信頼性の確立

「AI Scientist」や進化的モデルマージといった研究テーマは魅力的だが、外部評価からは「実験失敗率が高い」「生成論文に構成的欠落あり」などの指摘も出ている。  研究フェーズからサービス・ソリューション化へ移行するためには、信頼性・透明性・説明可能性といった要素を強化する必要がある。

(2)実装フェーズでの事業化と継続運用

資金・提携は着実に進んでいるものの、研究成果を実際に大規模産業仕様のソリューションとして展開・運用し、収益化へと結びつける「研究→事業化」の橋渡しが鍵である。特に金融、防衛、製造といった高セキュリティ・高信頼性分野で実証を重ねる必要がある。

(3)グローバル展開と人材確保

日本国内のインフラ・文化に適合させたAIを強みとする一方で、英語圏・他地域での競合や市場拡大を目指すならば、多言語・多文化・多拠点での対応力が欠かせない。また、AI研究・開発人材の争奪戦は激しく、国際的な採用戦略の構築も不可避だ。

(4)データ・資源・ガバナンスの課題

専門モデル・集合知モデルを育てるには、高品質なデータ、ドメイン知識、継続的なチューニング/運用体制が求められる。また、国家・文化を意識したソブリンAIを実現するには、倫理・プライバシー・説明責任・監査といったガバナンス設計も重要になる。

(5)今後の展望

Sakana AI が次に注力するフェーズとしては、「ソブリンAIモデルの商用化」「産業クラスタと連動したAI導入」「国際市場での競争展開」が想定される。200億円規模のシリーズB資金は、これらを実現するための研究・実装・拠点開発・M&Aなどに振り向けられると報じられている。 

日本から世界に向けたAI技術や事業がどんどんでてくると楽しみです。

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結びに代えて ― 日本発・新しいAI地図を描けるか

Sakana AI の登場は、“日本国内のAIスタートアップが世界と伍して戦える”という象徴的な事例であると同時に、AI産業の構造そのものを問い直す契機ともなっている。
「巨大モデルによる資源集中」ではなく、「協調・進化・文化適合」を軸とする構造。これは、AIのもう一つのあり方を提示している。他国・他地域にとっても示唆に富むモデルだ。

もちろん、まだ道半ばである。研究から実用化へ、国内からグローバルへ、理論から事業化へ――。しかし、Sakana AI が日本発の“ソブリンAI”を掲げ、評価額4,000億円規模を獲得したこと自体が、次世代AI競争における「地域主権」「多様化」「効率性」の新しいキーワードを浮かび上がらせた。

著者プロフィール

K2編集部
K2編集部
投資家、現役証券マン、現役保険マンの立場で記事を書いています。
K2アドバイザーによって内容確認した上で、K2公認の情報としてアップしています。

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