2025年の証券営業は、旧来型の「足で稼ぐ」モデルが完全に崩れ、業界の文化・技能体系そのものが根底から書き換わっている。ピンポン外交、名刺配り、パンフ配布、飛び込み、電話帳営業——昭和から平成の証券マンの象徴だった行動様式はほぼ絶滅し、代わりに店頭待機とコールセンター的役割が中心の“受け身型労働”へと変質した。だが、問題はこれが単なる営業手法の変化ではなく、証券マンとしての思考構造・キャリア形成・市場に対する当事者意識までも奪っている点にある。
本稿では、先代との本質的な違い、現代営業の構造的な弱点、そして今後の生存戦略までを整理し、2025年の証券マンが直面している現実と可能性を描き出す。
- 先代の証券マン:数字と覚悟の世界で鍛えられた“実戦型”
- 現代の証券マン:受け身構造が生む“鍛えられない環境”
- 現代の問題点:営業の“構造的劣化”とキャリアの閉塞
- 今後の生存戦略:証券マンは“どの力”を磨けば生き残るのか
- キャリアの行き先:証券マンの未来は3つに分岐する
先代の証券マン:数字と覚悟の世界で鍛えられた“実戦型”

昭和〜平成初期の証券マンは、優れた投資知識よりも前に、胆力・行動量・言語能力・交渉力が何よりも評価された。
• 朝から晩まで飛び込み営業
• 既存客への連日のフォロー
• 価格変動に合わせて利益確定・損切りの即断即決
• 月間ノルマを超えるための「自ら仕掛ける営業」
特に象徴的なのが、先代が言い続けた「有言実行」の文化だ。
「今月1億やると言わなければ1億はできない。客に1億を提案しなければ、客が1億やると言うこともない」。
つまり、言葉に出し、自分を追い込み、逃げずに行動し続けることで数字も信頼も獲得していくという職人的世界があった。
この圧倒的な行動量の中で、営業マンは自然に「自分の言葉で語る力」「相手を動かすストーリー」「タイミングを読む市場観」を身につけていった。営業の成長とは、ようするに自分の失敗と行動量の蓄積によってのみ獲得できるものだったのである。
現代の証券マン:受け身構造が生む“鍛えられない環境”

2025年の大手証券の現実は全く違う。
・ピンポン外交禁止
・飛び込み禁止
・名刺配布制限
・パンフ配り禁止
・訪問営業厳格化
・店頭は待機中心
・顧客対応はコールセンター化
表向きは「コンプライアンス強化」「顧客保護」の名目だが、実態は“営業行動のほぼ全てに行動制限がかかる”状態である。結果、証券マンの仕事は以下のように大きく変わった。
• 自分から仕掛けられない
• ノルマは従来通りに存在
• 店頭に座って電話を待つだけ
• コールセンター同様に問い合わせ対応中心
• 営業スキルが育ちにくい
• 市場観・投資ストーリーを語る機会が減る
つまり、「鍛えられる場」がほぼ消滅したのだ。
これが最も大きな断絶点である。
たとえば、先代は毎日のように客に損切りや利益確定を提案し、罵倒され、感謝され、そこから投資の本質と顧客心理を学んだ。
現代は「損切りを提案する文化」そのものが消え、むしろ触らず、何も言わず、責任回避する方が賢明だとされる。
当然、営業力は磨かれるはずがない。
現代の問題点:営業の“構造的劣化”とキャリアの閉塞

2025年の証券マンが抱える根本的な問題は以下の3つである。
①行動制限により、成長曲線が描けない
営業とは、断られ、嫌われ、試され、関係性の摩擦を経験してこそ強くなる。
だが、現在の証券現場には摩擦がない。
摩擦がないということは、強くもならず、深い関係性も築けないということだ。
②顧客はネット証券やAIの方を信じ始めている
手数料0、スマホ1つで即取引、AIが最適ポートフォリオを提案する時代。
若い顧客は証券マンを必要としていない。
③評価方法が“努力”でなく“ルール遵守”に変わった
先代:数字・行動量
現代:コンプラ遵守、クレームゼロ、内部評価
つまり会社が求めている人材と、営業としての本質が完全に乖離している。
この結果、証券マン自身が「成長している実感」を持てず、転職も難しく、キャリアビジョンを描けないという三重苦になる。
今後の生存戦略:証券マンは“どの力”を磨けば生き残るのか

今求められているのは、昭和型の武骨な営業力ではない。
しかし、ただ受け身で顧客対応していても未来はない。
2025年以降の証券マンが生き残る道は、次の3つしかない。
①金融コンサル型へのシフト
商品販売ではなく、
• ポートフォリオ診断
• 老後資産の設計
• 税務・保険を含めた包括的アドバイス
へ転じる。
つまり証券マンは**「金融の総合案内人」**にならなければならない。
②市場を語る“ストーリーテラー”化
情報はネットやAIで溢れている。
しかし「この相場でどう動くべきか」を噛み砕いて語れる人間は少ない。
これができる証券マンは希少価値が高い。
③AIを使った“レバレッジ型営業”
AIで市場解説を生成し、そこに自分の分析と経験を加え、
毎週のレポート、相場観、投資戦略を定期配信する。
今の規制下でも顧客に“触り続ける”方法は存在する。
キャリアの行き先:証券マンの未来は3つに分岐する
2025年以降、証券マンのキャリアは大きく3つに分かれる。
①IFA・独立系へ移行する人
規制に縛られず、商品・報酬体系も自由。
自分の顧客基盤を持つ者は、高い報酬と自由を得られる。
②金融法人営業・富裕層営業に移る人
上級資格を取得し、高度金融商品(保険・信託・不動産)を扱う総合営業へ上がる。
③証券マンとして消耗し続ける人
営業経験は積みにくく、数字は上がらず、キャリアも閉じる。
この層は最も苦しく、会社にしがみつくしかなくなる。
未来は極めて二極化する。
自分の顧客には規制に縛られずに幅広い提案をしたいですね。
まとめ
2025年の証券マンが直面しているのは、単なる営業手法の変化ではなく、職業そのものの再定義である。
先代の証券営業は、行動量と覚悟で市場を切り開く“実戦型”だった。
しかし現代は、行動制限とコンプラの壁に阻まれ、成長の機会そのものが消えつつある。
だが、未来が閉じているわけではない。
むしろ、行動規制があるからこそ、思考・構造・情報発信力が武器になる時代へと進んでいる。
そして、その変化に適応できる者だけが、IFAとして、金融コンサルとして、あるいは新時代の“語れる証券マン”として生き残る。
営業とは本来、
自ら仕掛け、価値を与え、客の未来を共に設計していく行為だ。
その本質を忘れた証券マンは生き残れない。
逆に、その本質を再定義し、現代の環境に合わせて使いこなせる者だけが、次の10年の勝者になる。
著者プロフィール

-
投資家、現役証券マン、現役保険マンの立場で記事を書いています。
K2アドバイザーによって内容確認した上で、K2公認の情報としてアップしています。
最近の投稿
この投稿へのトラックバック: https://media.k2-assurance.com/archives/35065/trackback

























