証券マンが語る「株の季節柄」――毎年繰り返される相場トーク

株式市場では、毎年ほぼ同じ時期に、ほぼ同じ言葉が繰り返される。
1月は「ご祝儀相場」、5月は「セル・イン・メイ」、12月は「掉尾の一振」。
これらは相場の未来を正確に言い当てる予言ではない。それでも消えずに使われ続けるのは、証券営業において極めて実用的な“説明装置”だからである。

本稿では、証券マンが月ごとに用いる典型的な季節柄トークを整理し、その背景にある需給・心理・営業上の意図を読み解く。重要なのは、季節性を信じるか否かではなく、「なぜその言葉が出てくるのか」を理解することだ。

  • 年初の「ご祝儀相場」はなぜ語られるのか
  • 配当と権利取りが主役になる3月・9月
  • セル・イン・メイと夏枯れ相場という“便利な説明”
  • 10月は危機の月か、転換点の月か
  • 掉尾の一振と年末相場の二面性

年初の「ご祝儀相場」はなぜ語られるのか

株シストレ研究所】年末年始は、絶好のお小遣い稼ぎのチャンス!? | 株の教科書

1月になると、市場では決まって「年初は強い」「ご祝儀相場が期待できる」という説明が登場する。
この背景には、年をまたぐことで投資家心理が一度リセットされるという特徴がある。含み損も失敗も「去年の話」になり、新しい一年への期待がリスク許容度を押し上げる。

加えて、年金や投資信託、機関投資家の運用計画が切り替わる時期でもあり、資金が動きやすいのは事実だ。
そのため証券営業では、「まずは年初にポジションを作る」という提案がしやすい。

ただし、年初高は必ずしも長続きしない。前年末に先回りで買われている場合、1月後半には失速することもある。
それでもこの言葉が使われるのは、「市場に参加するきっかけ」として極めて分かりやすいからにほかならない。

配当と権利取りが主役になる3月・9月

3月の魅力的な株主優待銘柄 高額で人気の3月の株主優待銘柄は | 株式(現物取引) | マネックス証券

3月と9月は、配当や株主優待を軸にしたトークが増える時期だ。
「権利日までは需給が良い」「配当利回りが下支えになる」といった説明は、特に個人投資家にとって理解しやすい。

配当は確定的な数字として示せるため、値上がり益よりも安心感を与えやすい。一方で、権利落ち後に株価が下落し、配当分以上に調整するケースも少なくない。
この点を十分に説明せず、「配当があるから大丈夫」とだけ語られると、判断を誤りやすくなる。

経験のある証券マンほど、配当を「主役」ではなく「補助的要素」として扱う。
季節柄トークとしては強力だが、値動きとセットで考えなければ意味を持たない。

セル・イン・メイと夏枯れ相場という“便利な説明”

5月は株の売り時?「セル・イン・メイ」を検証 | 資産運用の 1st STEP

5月になると、「セル・イン・メイ」という相場格言が頻繁に持ち出される。
連休明けに利益確定売りが出やすく、夏場にかけて相場が停滞しやすい、という説明は一見もっともらしい。

この言葉の特徴は、結果に対して責任を負わなくて済む点にある。
下がれば「だから言った」、上がれば「今年は例外」。営業トークとして非常に使い勝手が良い。

7〜8月にかけては「夏枯れ相場」という言葉が加わる。
出来高が減り、動かない理由を説明するための表現として使われることが多い。
実際には薄商いゆえに急変動が起きやすいのだが、「今はそういう時期」という言葉は、売買を控える判断を正当化してくれる。

10月は危機の月か、転換点の月か

ビットコインは10月に下落して終えましたが、11月には転換点を迎えることができるのでしょうか? | Bitgetニュース

10月は「相場が荒れやすい月」として語られることが多い。
過去の大きな暴落が10月に集中しているという記憶が、市場参加者の警戒心を高める。

一方で、警戒が強い分、売りが一巡した後に反発が起きやすいのも事実だ。
そのため証券営業では、「10月は怖いが、同時に押し目も生まれやすい」という、相反する説明が同時に使われる。

重要なのは、下落の原因が一時的な需給なのか、業績や金融環境の変化なのかを見極めることだ。
季節性だけを理由にした押し目買いは、しばしば大きな失敗につながる。

掉尾の一振と年末相場の二面性

掉尾の一振とは?大納会に向けた年末株高アノマリーは本当か過去データを徹底分析 | Invest Leaders[インベストリーダーズ]

12月になると、「掉尾の一振」という言葉が登場する。
年末にかけて株価が上昇しやすいという期待を表す、日本独特の相場表現だ。

背景には、機関投資家のウィンドウドレッシングや、個人投資家の年内決着志向がある。
同時に、含み損を確定させる節税売りも出やすく、銘柄ごとの値動きは二極化しやすい。

そのため年末相場は、「強い銘柄はさらに買われ、弱い銘柄は理由なく売られる」という構図になりがちだ。
営業トークとしては期待を語りやすいが、同時にポジション調整や利益確定の重要性も増す時期である。

季節ごとに動き方の統計があるんですね。

ちょうど12月の3週目くらいから海外勢は休みモードにはいるので、取引量も少なくなります。今年の投資を振り返りも兼ねて見直しもしましょう。
弊社では国内、海外問わず、クライアントの資産状況やお考えに沿ったアドバイスを無料でしています。アドバイスをご希望でしたら、下記のヒアリングシートに現在の状況やお考えを入力してください。
※投資ヒアリングシートはこちら(無料)

またLINEでもお気軽にご相談ください。
公式LINEアカウントの追加はこちら

まとめ――季節柄トークとの正しい付き合い方

証券マンが使う季節相場の話は、相場を当てるための法則ではない。
顧客に「今なぜ動くのか」「なぜ今は動かないのか」を短く説明するための言語である。

問題は、それを絶対視してしまうことだ。
季節性はあくまで確率論であり、その年の金融政策や業績環境次第で簡単に裏切られる。

季節柄トークを耳にしたときに確認すべきなのは、「今年の状況に本当に合っているか」。
背景にある需給や材料を冷静に見直せば、これらの言葉は煽りではなく、相場を整理するための補助線として機能する。

季節は毎年巡るが、相場の中身は毎年違う。その前提を忘れないことが、最も重要なリスク管理である。

著者プロフィール

K2編集部
K2編集部
投資家、現役証券マン、現役保険マンの立場で記事を書いています。
K2アドバイザーによって内容確認した上で、K2公認の情報としてアップしています。

この投稿へのトラックバック: https://media.k2-assurance.com/archives/35168/trackback