1990年代、カナダの小さな鉱山会社「Bre-X Minerals Ltd.」が、インドネシアのボルネオ島(カリマンタン島)で世界最大級の金鉱脈を発見したと発表し、株式市場に大きな熱狂を巻き起こした。しかし、それは綿密に仕組まれた**「でっち上げ」**だった。
この事件は、投資家心理と資本主義の欲望を利用した金融史上最悪級の詐欺事件として記録され、関与企業の株価は一時6,000倍近く上昇。その後の暴落で、世界中の投資家に壊滅的な損失を与えた。事件は20世紀末の資源ブームの「闇」を象徴する存在となった。
ブレックス事件とはどのような事件だったのでしょうか?
以下で詳しく解説します。
- ① 事件の舞台とブレックス社の正体
- ② 株価が60億ドルに膨張:熱狂と投資バブル
- ③ 詐欺の手口:金を「混ぜて」サンプル偽装
- ④ 詐欺の露見と「地質学者の謎の死」
- ⑤ 責任追及とその後の余波
① 事件の舞台とブレックス社の正体

• **Bre-X Minerals Ltd.は、1989年にカナダのカルガリーで創業された小規模な探鉱会社。
• 元証券マンでCEOのデイヴィッド・ウォルシュは、業績不振の同社を救うため、資源探査に活路を見出す。
• 1993年、インドネシアのボルネオ島・ブサン鉱区(Busang)**の金鉱探査権を獲得。
• 現地調査を率いたのはフィリピン人地質学者のマイケル・デ・グスマン。この人物が、事件のキーマンとなる。
当初は小規模の鉱脈と思われていたが、1995年から次第に「世界最大の金鉱」として注目を集め始める。
② 株価が60億ドルに膨張:熱狂と投資バブル

• ブレックスは1995年に「金の埋蔵量が2,000トン」と発表。これは米国のフォートノックス金塊備蓄に匹敵する規模。
• カナダや米国の投資家はこぞって株を買い漁り、株価は2年間で6,000倍近くに上昇。
• 1996年には大手鉱山会社バリック・ゴールドやインドネシアのスハルト政権までも関心を示し、国家プロジェクトにまで発展。
• カナダ証券取引所(TSE)では、「ブレックス株」が個人投資家に最も取引された銘柄の一つとなる。
• 企業価値は**最大で60億カナダドル(当時レートで約5,000億円超)**に達した。
この頃には、投資家、アナリスト、報道関係者が「黄金ラッシュ」として喧伝。カナダ経済の救世主とも称されていた。
③ 詐欺の手口:金を「混ぜて」サンプル偽装

• 実際には、ブサン鉱山に金はほとんどなかった。
• デ・グスマンは、採掘サンプルに市販の金を**「塩漬け(salting)」**することで、金含有量を偽装。
• ラボへの提出前に、試料に微粉砕した金をこっそり混ぜる方法で、検査をすり抜けた。
• 鉱床評価の際には不自然なほど高品位のデータが出続けたが、誰も疑わなかった。
この詐欺は3年以上にわたり継続され、社外の地質学者や投資アナリスト、政府関係者も信じ込んだ。詐欺の巧妙さと、「巨大発見」の期待が、検証の目を曇らせた。
④ 詐欺の露見と「地質学者の謎の死」

• 1997年3月、事態は急展開を迎える。
• カナダの鉱山大手フリーポート・マクモラン社が現地調査を行い、金鉱がほとんど存在しないことを発見。
• 同時期、マイケル・デ・グスマンがヘリコプターから墜落死(あるいは自殺)。死体は腐敗しており本人かどうかの検証も不明瞭。
• 一説では「殺害説」や「偽装死説」も存在し、今なお真相不明。
調査の結果、鉱脈の評価はすべて捏造と判明。株価は数日で99%以上暴落し、投資家は資産の大半を失った。
⑤ 責任追及とその後の余波

• ブレックス社はその後すぐに破産し、2003年に正式に清算。
• デイヴィッド・ウォルシュ(CEO)は2000年に脳卒中で死亡。刑事責任は問われず。
• カナダ証券取引所や監査法人、政府機関の責任も問われたが、大規模な訴追は行われなかった。
• 投資家による集団訴訟が提起されたが、回収はごくわずか。
事件後、鉱山投資における情報開示やサンプル管理の厳格化が国際的に求められ、カナダを中心に鉱業セクターのガバナンスが強化された。
ブレックス事件で用いられた詐欺手法は何だったのですか?
金を混ぜたサンプルで鉱脈を偽装しました。
まとめ
- 人間の欲望と検証の欠如が生んだ投資災害
- この事件は、「事実よりもストーリーを信じた人々」が、自らを破滅に導いた典型
- ブレックス事件の教訓は、現代のスタートアップ投資や暗号資産詐欺にも共通しており、「デューデリジェンス(十分な検証)」の重要性を今なお訴え続けている

著者プロフィール

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投資家、現役証券マン、現役保険マンの立場で記事を書いています。
K2アドバイザーによって内容確認した上で、K2公認の情報としてアップしています。
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