総論:なぜインサイダー取引は根絶できないのか
2026年、みずほ証券をめぐるインサイダー取引調査報道は、金融業界に改めて大きな波紋を広げた。インサイダー取引は、すでに何十年も前から違法性が明確にされ、監視体制も年々強化されてきた。それにもかかわらず、事件は定期的に繰り返されている。
これは単なる「個人の不祥事」ではない。制度があり、監視があり、教育も行われている中で、なお発生するという事実は、より深い構造的問題を示している。倫理観の問題なのか、副業感覚なのか、SNS文化の影響なのか、世代的価値観の変化なのか。それとも、そもそも違法性の認識が甘いのか。
本稿では、インサイダー取引がなくならない理由を、個人・組織・社会構造の三層から多角的に考察していく。
- 倫理観の希薄化と「プロ意識」の崩壊
- 副業感覚・小遣い稼ぎ化する内部情報利用
- SNS時代のマウンティング文化と成功礼賛
- 世代間ギャップと金融リテラシーの歪み
- 組織統制の限界と「形骸化するコンプライアンス」
倫理観の希薄化と「プロ意識」の崩壊

インサイダー取引の最も根本的な原因は、やはり倫理観の低下にある。
金融業界は、本来「信頼」を商品とする産業である。顧客資産、市場情報、企業機密を扱う以上、高度な職業倫理が求められる。しかし現実には、「ルールはあるが、守らなくても何とかなる」という空気が一部で蔓延している。
とりわけ問題なのは、「悪いことだと分かっていてやる」ケースの存在である。
・ばれなければいい
・一度くらいなら問題ない
・周囲もやっている
こうした心理が、内部者を誘惑する。
さらに、近年の金融業界では短期成果主義が極端に強まっている。評価は四半期単位、ボーナスは成果連動、ポジション争いは激化する。その中で、「結果を出すこと」だけが正義となり、「プロとしての矜持」が後退していく。
本来、内部情報に触れる立場であること自体が「重い責任」であるはずだが、それが「特権」にすり替わった瞬間、倫理は崩壊する。
副業感覚・小遣い稼ぎ化する内部情報利用

近年のインサイダー事件を見ていると、必ずしも巨額利益を狙ったケースばかりではない。数百万円、数千万円規模の「小遣い稼ぎ型」不正も増えている。
ここに見えるのは、「副業化」現象である。
現代では、投資・副業・資産運用が当たり前の時代になった。会社員でも株を買い、暗号資産を触り、投資情報を日常的に追う。そうした環境の中で、内部情報は「使えるネタ」「勝率の高い情報源」として認識されやすくなる。
つまり、
・これは犯罪ではなく「情報活用」
・ちょっと有利なだけ
・副収入みたいなもの
という認識が生まれる。
この意識変化は極めて危険である。インサイダー取引は「重罪」であるにもかかわらず、感覚的には「グレーな裏技」程度に矮小化されてしまう。
特に給与水準が伸び悩む中堅層では、「本業+α」で稼ぐ意識が強くなり、倫理より実利が優先されやすい構造がある。
SNS時代のマウンティング文化と成功礼賛

現代のインサイダー問題を考えるうえで、SNSの影響は無視できない。
SNSでは、
・月利○%
・爆益達成
・テンバガー成功
といった投稿が日常的に溢れている。そこでは「どう稼いだか」より「いくら稼いだか」が重視される。
結果だけが評価され、過程は問われない。
この文化は、金融倫理を確実に腐食する。
他人の成功を見るたびに、
「自分も勝たなければならない」
「遅れたら負け」
「何か裏技があるはず」
という焦燥感が生まれる。そして、その最短ルートとして「内部情報」が魅力的に見えてしまう。
さらに、SNSでは違法行為のリスクが可視化されにくい。捕まった人より、儲けた人の話が拡散されやすいからだ。その結果、「成功=正義」という歪んだ価値観が定着していく。
世代間ギャップと金融リテラシーの歪み

世代的要因も見逃せない。
かつての金融マンは、「会社人生=信用」という意識が強かった。不祥事は即キャリア崩壊を意味した。しかし現在は、転職・独立・副業が一般化し、「会社に人生を預けない」価値観が主流になっている。
これは健全な側面もあるが、裏を返せば、
「今の会社での評判より、今の利益」
を優先しやすい環境でもある。
また、若年層ほど投資経験は豊富だが、法制度への理解は浅い傾向がある。チャート分析やSNS情報には詳しくても、金融商品取引法の詳細を理解している人は少ない。
結果として、
・どこからが違法か分からない
・グレーならOKと思っている
・家族名義なら大丈夫と誤解している
といった危うい判断が生まれる。
リテラシーが高いようで、実は偏っている――これが現代的な問題である。
組織統制の限界と「形骸化するコンプライアンス」

最後に、組織側の問題も大きい。
多くの金融機関では、コンプライアンス研修、誓約書、取引制限などが形式的に整備されている。しかし、実態としては「チェックリスト化」している場合が多い。
・研修は動画を見るだけ
・理解度テストは形だけ
・監視は抜け道だらけ
これでは実効性は乏しい。
さらに、日本企業特有の「内部で波風を立てない文化」も問題だ。怪しい行動に気づいても、告発しづらい雰囲気がある。その結果、問題は内部で温存され、発覚時には刑事事件にまで発展する。
本来、インサイダー対策は「制度×文化×実務」が一体で機能しなければならない。しかし多くの組織では、制度だけが独立し、文化と乖離している。
結局、問題は人ではなく、環境なんですね。
そうです。人は環境に適応します。不正が起きる組織は、不正に適応しやすい環境を作っているのです。
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まとめ:インサイダー問題は「個人の犯罪」ではなく「社会病理」である
インサイダー取引がなくならない理由は、一つではない。
・倫理観の劣化
・副業感覚の蔓延
・SNS成功至上主義
・世代的価値観の変化
・形骸化した統制
これらが複合的に絡み合い、不正を生み続けている。
重要なのは、これを「一部の悪人の問題」で片付けないことである。むしろ、現代社会そのものが不正を誘発する構造を内包していると言える。
真の解決には、
・罰則強化だけでなく
・倫理教育の再構築
・組織文化の刷新
・成果主義の見直し
・情報透明性の向上
が不可欠だ。
市場の信頼は、一度壊れれば簡単には戻らない。インサイダー取引との戦いは、個人の問題ではなく、社会全体の成熟度を問う試金石なのである。
著者プロフィール

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投資家、現役証券マン、現役保険マンの立場で記事を書いています。
K2アドバイザーによって内容確認した上で、K2公認の情報としてアップしています。
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