総論:相場が良いほど人は愚かになる
株価が上がるほど、人は冷静さを失う。
自分の判断力ではなく「相場の勢い」で利益が出ているのに、それを自分の実力だと錯覚する。
そして、そのまま「上がることが当然」と思い込み、いつか市場が裏切った瞬間に、資産もプライドも同時に崩壊する。
これは過去何度も繰り返されてきた“人間の弱点”であり、決して新しい現象ではない。
だが、いま日本で再びその構造が再現されている。NISAとインデックス投資の大衆化である。
「放っておくだけで増える」「積み立てていれば大丈夫」「長期・分散・積立が正義」──これらの言葉が安全神話として流通しているが、その裏には思考を停止した投資行動と群集心理の危うさが潜んでいる。
- “相場が良い”ときほど現れる「自己過信バイアス」
- NISAとインデックス投資の“思考停止トラップ”
- 「楽して儲けたい」思想がもたらす集団的盲目
- 集団心理が作る「新しいバブル」の形
- 「考える投資家」だけが生き残る
“相場が良い”ときほど現れる「自己過信バイアス」

人は上昇相場でこそ自信過剰になる。
2020年代以降の米国株高や円安による資産インフレは、多くの個人投資家を「自分の選択が正しかった」と錯覚させた。
SNSでは「NISAだけで1000万円達成」「放置で資産倍増」といった投稿が溢れ、他人の成功例が新たな投資家を呼び込む。
しかし、彼らの大半はマーケットの原理を理解していない。
FRBの金利政策、企業のEPS成長、為替要因、流動性循環などには無関心で、「上がっているから買う」だけの行動を繰り返す。
そして、それを「堅実な長期投資」と呼び変える。
だが実際は、彼らがやっていることは“合理的投資”ではなく、“集団的投機”である。
上昇トレンドの中で「誰もが儲かる環境」に慣れると、人は必ずリスクを忘れる。
利益が出ている間は、警告の声もノイズにしか聞こえない。
NISAとインデックス投資の“思考停止トラップ”

日本の新NISA制度は、確かに素晴らしい仕組みだ。
非課税で資産形成でき、国民全体の投資リテラシーを底上げするという理念も正しい。
しかし、実際には**「何も考えずに放っておけば勝てる」**という幻想を量産している。
これは制度の問題というよりも、利用者の心理構造の問題だ。
インデックス投資は本来、「市場平均を取る=市場全体の成長を信じる」行為である。
だが、ほとんどの投資家は市場全体の成長構造を理解していない。
S&P500が上がっている理由も、セクター比率の偏り(GAFA+テスラ+NVIDIAなど)も、ドル建てリターンと円建てリターンの乖離も考えずに、ただ「上がっている指数に乗る」。
それは投資ではなく、バブルの温度に合わせて踊る行為でしかない。
「楽して儲けたい」思想がもたらす集団的盲目

NISA投資ブームの根底にあるのは、「努力せずに成果がほしい」という国民的心理である。
過去の団塊世代もバブル期に同じ過ちを犯した。
不動産も株も右肩上がりで、「買えば儲かる」時代に、彼らはリスクを忘れ、信用取引や投資信託に過剰にのめり込んだ。
そして、崩壊後に残ったのは、膨大な債務と“投資は危険だ”という刷り込みだった。
現代のNISA世代も、本質は同じ構造にある。
SNSが「楽して儲かる方法」を拡散し、YouTuberやブロガーが「放置でOK」と囁く。
情報は氾濫しているのに、“自分の頭で考える人”が極端に減っている。
つまり、情報過多が逆に思考停止を生み出す。
本来、投資とはリスクと向き合う行為であり、未来を予測する訓練でもある。
だが多くの個人投資家は、「考えること」をリスクと感じている。
集団心理が作る「新しいバブル」の形

かつてのバブルは、土地や株など実体資産が舞台だった。
しかし今のバブルは、**「制度」と「安心感」**の中で膨らんでいる。
NISAやインデックスという言葉が、“国が推奨しているから安全”という誤解を与えている。
制度が信用の根拠になることで、リスク管理の思考が麻痺する。
さらに、SNSによる集団心理の加速が、従来よりも爆発的な速度で群衆を動かす。
「みんなやっている」「銀行も勧めている」「YouTubeでも紹介されている」──これらの言葉は、最強の免罪符となる。
結果、リスクの本質を見ないまま参加者が増え、市場は制度の人気に支えられた“人工的な上昇”を形成する。
それが崩れた瞬間、彼らは“制度”を裏切ったと感じ、国や証券会社を非難する。
だが、裏切ったのは自分の思考停止である。
「考える投資家」だけが生き残る

真にリスクを理解する投資家は、上昇相場でも慎重だ。
彼らは「市場が自分を助けてくれている間に、どこまでが実力か」を常に検証する。
そして、儲かっている時ほど危険を感じる。
それがリスクマネジメントの核心であり、歴史的に生き残る投資家の共通点でもある。
投資で成功する人は、「儲けるために考える」のではなく、「破綻しないために考える」。
リターンを追うよりも、損失を避ける。
その姿勢こそが、長期的な複利を守る唯一の防御線だ。
“考えない投資”は、一見合理的に見えて、最も非合理な行為である。
なぜなら、相場は「考えない人」から「考え続ける人」へと富を移転させる構造でできているからだ。
思考停止の真似事ではダメってことですね。
ビジネスでも投資でも同じですが、思考を止めると停滞ではなく衰退します。
まとめ:NISAは武器であって、免罪符ではない
NISAもインデックスも、それ自体が悪ではない。
問題は、それを「考えなくて済む装置」として扱う人間側の姿勢だ。
バブルはいつも、仕組みではなく心理が作る。
相場が好調な今こそ、**「なぜ上がっているのか」「いつ崩れるのか」**を考える力が問われる。
まとめ
- 歴史は繰り返す。
- 団塊の世代が“楽して儲けられる”と信じて失ったように、次の世代も同じ幻想の中で踊るなら、結末は変わらない。
- 結局、投資とは「考える力を試される知的競技」であり、思考を手放した瞬間に、それは資産形成ではなく群衆ゲームへと堕する。
著者プロフィール

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投資家、現役証券マン、現役保険マンの立場で記事を書いています。
K2アドバイザーによって内容確認した上で、K2公認の情報としてアップしています。
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