減価償却とは、建物などの資産の取得費用を耐用年数にわたり分割して費用計上する会計・税務処理のことです。日本では、居住用不動産の建物部分の減価償却期間は法定耐用年数に基づいて厳格に定められていますが、海外ではその考え方や年数、計算方法が国によって大きく異なります。
特に日本人投資家にとって重要なのは、国外の不動産を日本で所有・運用する場合、国内税法(所得税法)のルールで減価償却できることです。つまり、日本人が米国の木造住宅を取得した場合、日本の税制では「法定耐用年数を経過した中古物件」として最短4年で償却でき、大きな節税効果を得ることが可能です。
ただし、節税目的の過度な利用に対しては税務調査や改正リスクもあり、各国のルールと日本側の課税関係を正確に理解することが不可欠です。
減価償却について教えてください。
以下で詳しく解説します。
- 日本国内の減価償却制度と特徴
- 米国の減価償却制度(投資対象として最も活用される国)
- 東南アジア(タイ・フィリピン・マレーシアなど)の減価償却事情
- オーストラリア・ニュージーランドの制度と日本人投資家への影響
- 節税とリスク管理の両立のための実務ポイント
日本国内の減価償却制度と特徴

建物の耐用年数と償却方法
日本の減価償却制度では、建物は構造ごとに「法定耐用年数」が定められています。たとえば:
• 木造:22年
• 鉄骨造:34年
• RC(鉄筋コンクリート):47年
中古物件を購入した場合、法定耐用年数を過ぎていれば「簡便法」により耐用年数を短縮して償却可能となります。たとえば木造住宅で築25年なら、残存耐用年数は「4年(22÷2=11年→その20%=4年)」とされます。
償却方法
• 定額法が基本(法人でも個人でも原則は定額)
• 土地は減価償却できない
• 建物部分と設備部分を分けて計上することも可能
このように、日本の制度は細かく規定されていますが、中古物件の短期償却を活用することで、大きな節税が可能となります。
米国の減価償却制度(投資対象として最も活用される国)

米国現地での償却制度
米国では減価償却(Depreciation)はIRS(内国歳入庁)により規定されており、投資用不動産には以下の耐用年数が適用されます:
• 住宅用:27.5年(定額法)
• 商業用:39年(定額法)
建物の評価額をベースに、土地部分を除いた金額で計算され、毎年一定額を経費化できます。
日本の税務上の扱い
日本人が米国の中古住宅を取得した場合、日本の税務上は「外国中古建物」として評価され、築年数と構造に応じた日本の耐用年数で償却可能です。たとえば築30年の木造住宅であれば、耐用年数超過のため4年間で償却可能です。
このため、日本では米国不動産を使った節税スキーム(4年償却+家賃収入)として利用されてきましたが、2021年税制改正により、償却の基礎となる取得価格に上限(鑑定評価額)が設けられるなどの制限がかかりました。
東南アジア(タイ・フィリピン・マレーシアなど)の減価償却事情

現地での償却制度(概要)
• タイ:建物の償却期間は20年(定額法)
• フィリピン:通常20~40年(資産の種類による)
• マレーシア:住宅で50年、商業用で20年など(直線法)
これらの国では、個人投資家が現地で減価償却を行うよりも、日本の税制に基づいて減価償却を行う方が有利な場合が多いです。特に築古物件であれば、日本の「4年償却」が可能となることがあります。
ただし、日本の課税庁が海外の取得額や構造などに厳しく目を光らせているため、正確な資料の保管(契約書・鑑定書・現地写真など)が求められます。
オーストラリア・ニュージーランドの制度と日本人投資家への影響

オーストラリアの減価償却
オーストラリアでは、2017年以降、中古住宅の設備償却が非居住者に対して認められない制度改正がありました。建物部分は構造により40年の直線償却が認められますが、築年数が古い中古住宅では償却が困難となります。
日本側では、同様に築年数と構造に応じて4年~10年などの短期償却が可能ですが、豪州税制との整合性や証明資料の整備が鍵となります。
ニュージーランドの特殊事情
2021年以降、住宅投資に対する減価償却の廃止(建物部分に限る)が実施され、投資家には逆風となっています。ただし、商業用不動産にはまだ償却が認められており、日本人の法人投資で活用されるケースがあります。
節税とリスク管理の両立のための実務ポイント

節税効果を享受するには
• 中古物件の築年数と構造を把握:法定耐用年数の過ぎた物件を狙う
• 建物・土地の按分を正確に:鑑定評価が必要な場合も
• 4年償却のメリットを最大限活用:ただし、1年で多額償却しすぎると赤字の繰越が不可になるリスクも
税務リスクへの備え
• 税制改正の影響を逐次確認(過去にはタックスヘイブン対策税制や減価償却制限改正あり)
• 海外不動産スキームへの監視強化:国税庁が「節税目的の過度な活用」を問題視
• **移転価格税制や海外口座報告制度(CRS)**との連動も留意
• 税理士や不動産専門家との連携が必須
海外不動産に投資して、減価償却を活用する節税は出来なくなりましたよね?
個人での海外不動産を活用した節税は、令和2年度の税制改正で出来なくなりました。
まとめ
- 海外不動産への投資は、減価償却制度の違いを理解し、適切に活用することで大きな節税効果を得られる一方で、税制改正や税務調査リスクと常に隣り合わせでもある
- 日本の「4年償却」を活用した米国やタイの築古物件投資は一時期人気を博しましたが、近年は規制強化の傾向も見られる
- 今後は、安定したインカムゲイン+適度な減価償却によるリスク管理型の投資戦略が求められる
- 国ごとの制度を利用する際は、日本と現地の両税制を熟知した専門家の助言が極めて重要
- 会計上だけでなく、税務調査や実務面まで想定した「正しく強いスキーム」こそが、長期的な不動産投資成功の鍵となる
著者プロフィール

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投資家、現役証券マン、現役保険マンの立場で記事を書いています。
K2アドバイザーによって内容確認した上で、K2公認の情報としてアップしています。
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