ドルの時代に陰り?ハーバード大学教授が語る「通貨の地殻変動」

IMF(国際通貨基金)のチーフエコノミストや、FRB(米連邦準備制度理事会)のアナリストなどを歴任し、長年にわたってドルを中心とした国際金融秩序の内側に身を置いてきた人物である米ハーバード大学の経済学者ケネス・ロゴフ氏が、「仮想通貨がドルの覇権を崩す」と警鐘を鳴らしています。

  • なぜ今「ドル体制」に疑問を呈するのか
  • 地下経済で進む仮想通貨の拡大とドルの相対的後退
  • 複合的に進むドルの地位低下と多極化する通貨秩序

なぜ今「ドル体制」に疑問を呈するのか

近年、世界経済における米ドルの支配的地位に対し、懸念や疑問の声がじわじわと高まりつつある。そうした中、注目を集めているのがハーバード大学の経済学者、ケネス・ロゴフ氏の警鐘です。

ロゴフ氏はIMF(国際通貨基金)のチーフエコノミストや、FRB(米連邦準備制度理事会)のアナリストなど、国際金融の中枢でキャリアを積んできた人物。

その彼が、「ドルの支配はもはや絶対ではない」との見解を示している点は、単なる学術的論評にとどまらず、大きな意味を持ちます。

ロゴフ氏が言及するのは、ドルの「支配」が徐々にほころび始めているという現実です。

これまで米ドルは、グローバルな取引通貨、準備通貨として圧倒的な地位を誇ってきましたが、経済の多極化や新興国の台頭、地政学的な緊張、さらには仮想通貨の登場と普及といった新たな潮流が、ドルの一極支配に揺さぶりをかけています。

これらの要因は、従来とは異なる通貨の選択肢を世界に提示し始めており、各国が「ドル離れ」を模索する動きも一部で見られます。

ロゴフ氏が近著の中で展開するのは、こうした現状に対する問題提起です。

特に、米国が自国の政策判断によって世界経済に広範な影響を及ぼしている構造、つまり「米国の選択が、他国の経済リスクになる」という側面への注目は見逃せません。

実際、米国の金利政策や財政運営は、ドルを通じて世界の資本市場を大きく揺さぶってきたが、こうした構造の持続可能性が問われています。

またロゴフ氏は、基軸通貨であるドルが、これまでいかに「見えない信用」に支えられてきたか主張しているが、軍事力、経済規模、金融制度の信頼性といった要素が、ドルの強さを下支えしてきたのは事実です。

しかしながら、これらの「信用の柱」が揺らぎ始めている今、ドルが未来永劫その地位を保てる保証はないというのが、ロゴフ氏が主張している内容です。

こうした視点は、ドル体制が当たり前のものとして続くという前提に立つ多くの国々や市場参加者に対して、大きな再考を促すものです。世界の通貨秩序が大きく変化する前夜にあるというならば、私たちはその兆候を見落とすべきではないでしょう。

アメリカが金利や金融政策を変えるだけで世界中が影響を受けるのは、おかしくないですか?

確かに、現在の国際金融体制は、アメリカの動向が他国に直接的な影響を与えるという構造的な不均衡を抱えています。

ドルが基軸通貨である限り、この影響力は避けられないものですが、ロゴフ氏の指摘のように、それを前提とした時代が永続するとは限りません。今後、各国がドルの影響から脱却しようとする動きが進めば、この構造自体が見直される可能性もあります。

地下経済で進む仮想通貨の拡大とドルの相対的後退

ロゴフ氏の分析の中でも特に注目されるのが、仮想通貨とドルの関係についての指摘です。

彼は、合法経済において、ビットコインをはじめとする仮想通貨がドルに取って代わることは「あり得ない」と述べています。

理由は、政府の支配力が強く及ぶ領域では、通貨制度も税制も規制も厳格に設計されており、匿名性やボーダレス性を持つ仮想通貨が主流の取引手段となる余地は少ないから。

しかし、ロゴフ氏が強調するのは、こうした政府の影響力が及びにくい「地下経済」における仮想通貨の存在感です。

ここでいう地下経済とは、違法なドラッグ取引や資金洗浄だけではなく、合法の枠組みを逸脱した脱税行為や匿名性を求める自由市場も含まれる。こうした空間では、中央銀行の信用や政府の保証に依存しない仮想通貨が、利用者にとって魅力的な選択肢となります。

実際、ダークウェブや匿名性を重視するマーケットプレイスでは、ビットコインやモネロといった仮想通貨がすでに広く使われていますが、これらの経済圏は統計に表れにくいが、確実に拡大しており、表の経済に間接的な影響を及ぼすようになっています。

ロゴフ氏は、こうした「見えない経済活動」が、ドルの信認と支配力をじわじわと浸食する可能性があると強く警鐘を鳴らしています。

私たちは今、表面上はドルが支配する世界に見えても、その下層では別の通貨秩序が着実に育ちつつある現実に直面しているのかもしれません。

地下経済の拡大が本当にドル体制に影響するんですか?表の経済には無関係に思えます。

一見すると関係がないように思えるかもしれませんが、地下経済での仮想通貨の浸透は、ドルの「信頼性」や「必要性」を相対的に削ぐ動きです。

特に発展途上国では、政府や通貨への信頼が低く、仮想通貨が主な取引手段になっている例もあります。

こうした動きが拡大すれば、公式統計に表れないところで通貨秩序が変化している、というロゴフ氏の見方は非常に現実的だといえます。

複合的に進むドルの地位低下と多極化する通貨秩序

ロゴフ氏の新著「Our Dollar, Your Problem」では、ドルの国際的地位を脅かす要因が複合的に進行していることが強調されているようですが、そのひとつが、地政学的な力の再編についてです。

特に中国の経済的台頭は、貿易や投資における人民元の使用拡大を促し、ドル一強の構造に挑戦する形となっています。

さらに、米国と主要貿易国・同盟国との関係も近年ギクシャクし始めており、信頼を通貨の価値とするドルにとっては、大きなリスク要因といえるでしょう。

また、私も何度か記事で取り上げておりますが、米国の財政赤字の拡大や、過度な金融緩和によってドルの価値が希薄化するという懸念も根強いです。

これにより、各国は外貨準備の多様化を進め、ゴールドやデジタル通貨、その他の実物資産に分散する動きが強まっています。特に新興国では、ドル依存から脱却し、自国通貨を安定的に保つための努力が加速している。

加えて、テクノロジーの進化がもたらす新しい通貨インフラも無視できません。

中央銀行デジタル通貨(CBDC)の開発が各国で進むなか、ドルの使いやすさや即時性といった「優位性」が相対的に失われつつあります。

こうした流れの中で、ロゴフ氏は「これからの通貨秩序は、かつてのような一強ではなく、多極化が進む可能性が高い」と予測しています。

もはや、ドルは「世界の唯一の選択肢」ではなくなりつつある。ロゴフ氏の言葉は、単なる警鐘ではなく、すでに始まっている通貨秩序の地殻変動を明らかにする一種の警告灯です。

次に訪れる世界は、複数の通貨がバランスを取り合いながら機能する、新たな秩序の時代なのかもしれません。

公式な推奨ではないですが、個人的な見解として資産分散や通貨リスクへの備えが必要だと感じます。

ドルの時代が終わるとしたら、何が代わりになるのでしょうか?人民元ですか?仮想通貨ですか?

ロゴフ氏は、ドルの代わりに1つの通貨が覇権を握るという形にはならず、多極的な通貨秩序へと移行していくと予測しています。

したがって、私たち個人の資産防衛においても、分散投資は今まで以上に重要になります。

まとめ

  • ドル体制は永遠ではない
  • 仮想通貨は地下で拡大
  • 通貨秩序は多極化へ進行

ドルに揺らぎがあっても、魅力ある投資先は存在します。
大切なのは「中身」。

成長性・安定収益を兼ね備えたドル建て資産を、戦略的に組み入れる視点を持ちましょう。

 「自分に合う投資配分を知りたい」という方は、こちらからお気軽にご相談ください。

著者プロフィール

大崎真嗣
大崎真嗣
投資アドバイザー

愛知大学経済学部卒業
大手旅行会社で10年間、その後、企業の人材育成を支援する会社で約6年間、法人営業として経験を積む。
直近約5年半はキャリアコンサルタントとして、転職希望者の相談や企業の採用に一役を担う。

その傍らで、自らの投資経験を踏まえたファイナンシャルアドバイスを開始。
ファイナンシャルプランナー2級も取得。

自分でしっかり考える投資家をサポートするという経営方針に共感し、自らもかねてから顧客であったK2 Collegeに参画。

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