AI時代の営業力 ― 証券キャリアの再定義

総論:AIが奪うのは「説明力」、残るのは「説得力」

AIが高度化するほど、営業職のうち情報伝達型の仕事は急速に自動化されていく。
顧客分析、資料作成、提案書のドラフト、マーケットデータの提示──これらはすでにAIが人間を上回る速度と精度を持っている。
しかし、AIにはいまだ「相手の感情を変化させる」能力がない。

営業の本質とは、人を理解し、信じてもらい、行動を変えさせることである。
これは単なるデータ処理ではなく、文脈の把握・信頼の醸成・感情の操作といった、極めて人間的な総合知だ。
AI時代においても、「どんな商品でも、誰にでも、状況に応じて売れる人間」は、決して代替されない。

証券業界においてこの構造は特に顕著だ。
なぜなら、顧客が買っているのは「銘柄」や「商品」ではなく、
**“あなたというフィルターを通した判断”**だからである。

  • AI時代の「営業力」とは何か
  • 証券業界の営業構造が抱える課題
  • AI × 営業 の最強融合モデル
  • AI時代の証券営業キャリア設計
  • 営業力を「最強資産」に変えるために

AI時代の「営業力」とは何か

営業力とは?できる営業マンに必要なスキル・強化方法 | オンライン研修・

情報提供型営業の終焉

かつての証券営業は「情報の先取り」が命だった。
しかし、ChatGPTやBloomberg GPTの登場により、投資家個人であっても高度な分析をリアルタイムで入手できる時代となった。
このため、営業が「マーケット情報を伝える」だけの存在であれば、顧客はAIの方を選ぶ。

つまり、「情報を届ける」営業は消滅する。
残るのは、「情報を意味に変える」営業である。

営業力=“意味変換能力”

営業の本質は、事実を提示することではなく、
「顧客が行動を起こす意味を発見させること」
にある。

AIが提示する数値を読み取り、
「今この局面でどう行動すべきか」を物語として顧客に提示できる人間。
この“解釈者としての営業”こそ、AIが最も苦手とする領域だ。

証券マンであれば、
• マーケットの乱高下を「恐怖」ではなく「再配分の機会」として伝えられる人
• 長期運用を「忍耐」ではなく「未来をデザインする手段」として導ける人
──こうした「感情の変換」を担える人間が、AI時代の真の営業になる。

証券業界の営業構造が抱える課題

営業配属だけはイヤだ」 新卒は、なぜ営業職にアレルギーを持つのか? (ITmedia ビジネスオンライン)

若手離職と「営業アレルギー」

現在、証券会社では20〜30代の離職率が上昇している。
背景には、数字至上主義と精神論文化、そして「営業がスキルとして積み上がらない」という感覚がある。
AIが急速に拡大する今、若手は「再現性あるスキル」=データ・分析・マーケティングへ逃避する。

だが paradoxically、この時代に営業を極めることこそ最も再現性の高いスキルになる。
なぜなら営業力とは、テクノロジーを横断して生きる「人間理解の言語」であり、
どんな時代・業界でも通用する“行動変容技術”だからだ。

「旧型営業文化」の限界

旧来型の証券営業は「関係」「根性」「上意下達」で成立していた。
しかし現代では、
• SNSによる情報開示
• 顧客の金融リテラシー上昇
• コンプライアンス規制
により、「押し売り」や「担当者のカリスマ」での営業は成立しない。

この構造が崩れた今、必要なのは科学化された営業力である。
感覚ではなくデータで顧客を理解し、AIツールを駆使して「確率的に信頼を構築する」。
これが、次世代の証券営業マンに求められる基礎能力となる。

AI × 営業 の最強融合モデル

営業部門でのAI活用事例9選!生成AI・AIエージェントで何が

AIは「営業補助装置」ではなく「共犯者」

AIを恐れる営業は淘汰されるが、
AIを“部下”として使いこなす営業は飛躍的に強くなる。

実際の証券業務では以下のような構造が成立する:

つまり、AIが“分析”し、人間が“説得”するという分業構造が最強形態だ。
営業がAIを敵視せず、相棒として統合できるかが、今後のキャリアを左右する。

AI時代の証券営業キャリア設計

優秀な証券営業マンが独立アドバイザーに転じる理由 | ニッポン金融ウラの裏 | 浪川攻 | 毎日新聞「経済プレミア」

生き残るのは「AIを使える人間味」

証券業界で生き残る人材とは、「人間味」と「機械リテラシー」の両立者である。
つまり、

「AIが出した分析を、顧客の言葉に翻訳して届けられる人」

営業マンの未来像は、「デジタル × 感情 × 信頼」の三軸に支えられる。

キャリアの多様化

AI時代の証券営業は、単なる「販売職」から次のような方向へ拡張する:

つまり、**“売る”ではなく、“導く”**営業にシフトすることで、
AIと共存しながらキャリアを拡張できる。

営業力を「最強資産」に変えるために

説得力のある人の話し方とは?人を動かす10のコミュニケーション術

AI時代、情報は無限に安くなり、人間の“説得力”だけが価値を持つ。
そのためには、営業力を以下の3段階で磨く必要がある。

ステージ1:人間理解の深化

心理学・行動経済学・NLP(神経言語プログラミング)などを学び、
「顧客が動く言葉」を理解する。
特に証券では、損失回避・確証バイアス・群集心理など、投資家心理のメカニズムを把握することが武器になる。

ステージ2:AIとの協働力

ChatGPTやCRMツールを日常業務に統合し、
「情報を探す」から「AIに考えさせる」へ。
AIを使いこなす営業は、時間を「顧客との対話」に集中できる。
つまり、AIが“作業”を担い、人間が“感情”を担う。

ステージ3:信頼資本の構築

顧客は、数字ではなく「誠実な人間」を信じる。
AIの時代ほど、誠実・責任感・安定感が差別化要因になる。
「AIでは代替できない温度感」を持つ人間こそ、最高のセールスアセットとなる。

AIで調べれば分かる時代なので、営業について迷走していました。

AIの進歩によって営業力の重要なポイントが変わってきたので、うまく使い分けて行きましょう。
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まとめ

  • AIが進化するほど、“営業”は人間に戻る
  • AI時代の証券キャリアで最も強い人間とは、「テクノロジーを理解」「顧客の心に寄り添い」「その両者を橋渡しする“翻訳者”」である。
  • AIが奪うのは情報伝達であり、AIが与えるのは「人間がより人間らしく働くための余白」である。
  • 営業職の価値は、“押し売りの力”ではなく、“信頼と感情を扱う知性”へと再定義されつつある。
  • そしてそれは、**証券マンという職種の原点──「人の未来を信じて、共にリスクを負う仕事」**に、静かに回帰していく。

著者プロフィール

K2編集部
K2編集部
投資家、現役証券マン、現役保険マンの立場で記事を書いています。
K2アドバイザーによって内容確認した上で、K2公認の情報としてアップしています。

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