総論:数字を“宣言”し、行動で裏付ける営業哲学の本質
野村證券の大田渕・小田渕の時代から受け継がれてきた「有言実行」という文化は、単なる根性論ではない。本質は──数字を先に宣言し、その宣言に自らを強制的に合わせていくことで責任感と行動量を最大化する、極めて合理的なプロフェッショナル行動規範である。
「今月1億円やります」と言うのは虚勢ではなく、“そう言わなければ1億円の行動には絶対届かない”ことを熟知した上での戦略であり、客に対しても“こちらが提案しなければ取引は始まらない”という現実への自覚でもあった。
さらに野村の文化は、売ること以上に顧客の資産を責任を持って運用・管理する姿勢を重視していた。「投資しっぱなしにしない」「上がったら利益確定を必ず提案する」「下がったら説明し、必要なら損切りを促す」──これはまさに運用者の倫理と実務の核心であり、営業マンというより“資産責任を持つアドバイザー”の哲学である。
要するに、野村の「有言実行」とは、逃げない、誤魔化さない、主体的に動く、すべては顧客のためという統合された行動原理であり、それが高度経済成長期から現在まで続く金融プロフェッショナルの基準を形成してきた。
- まず宣言する──数字を先に置くことで行動が変わる
- 顧客に提案しない限り、取引は絶対に生まれない
- 運用責任の核心──利益確定は必ず提案する
- 下落時に逃げない──説明責任、損切り提案、誤魔化さない姿勢
- 金融プロフェッショナルの原点──言う・行動する・責任を負う
まず宣言する──数字を先に置くことで行動が変わる

野村の伝統では、「今月これだけのコミッションをやる」と自ら宣言することが出発点だった。
宣言は精神論ではなく、行動設計である。
• 宣言する=退路を断つ
• 退路を断つ=優先順位が自動的に整う
• 行動が整う=数字に届く
人間は目標を“外部化”すると、行動が変わる。これは行動経済学でも証明されているが、野村はそれを半世紀前から実務に組み込んでいた。
数字を言わなければ数字は動かない。やると言わなければ“本気の1日”は生まれない。宣言とは、責任を負う覚悟の表明であり、自分を“やる側の人間”へ強制的に変える技術だった。
顧客に提案しない限り、取引は絶対に生まれない

「1億円のオファーをしなければ、客が1億円やるとは言わない」
この言葉は本質的である。顧客の資産運用は“提案が起点”であり、顧客から自然発生的に取引が生まれることはほぼない。
金融の現場では次のような構造がある:
• 顧客は情報量が少なく、自ら判断しづらい
• だが、正しい提案があれば乗る
• 提案しなければ何も起きない
• 結果、顧客のポートフォリオは停滞したまま
野村の営業文化が強かった理由は、提案する側が“最初の一歩”を必ず踏み出す習慣があったからである。
商品が良いか悪いかに関わらず「買ってください」と言う──これは押し売りではなく、判断の起点を顧客に提供する“金融サービスの本質”である。
黙って待つ営業マンが売れないのは当然だ。投資判断は提案した側が作る。それを徹底していたのが野村だった。
運用責任の核心──利益確定は必ず提案する

「投資させっぱなしにしない」
これは野村の文化の中でも特に強調されていた部分だ。
利益が出たときに利益確定を促す人間は意外に少ない。
理由はただ一つ──言えば数字にならないからである。
しかし野村の哲学は逆だった。
• 利益が出ているときこそ顧客の信頼を構築するチャンス
• 利益確定は“運用の成功を確定させる”重要な仕事
• 目先のコミッションより、顧客の長期的成功を優先
これを徹底したからこそ、野村の営業は「売って終わり」ではなく“運用の出口まで責任を持つアドバイザー”としての信頼を積み上げていった。
投資で一番難しいのは「売り」だ。「売り」を言える営業文化は、世界的に見ても稀有である。
下落時に逃げない──説明責任、損切り提案、誤魔化さない姿勢
![株初心者が押さえるべき株価下落の原因と対策 | 1からはじめる初心者にやさしい株入門|株1 [カブワン]](https://www.kabu-1.jp/wp-content/uploads/2015/09/shutterstock_105189368.jpg)
相場が下落したとき、多くの金融マンは逃げる。
しかし野村ではそれが最も厳しく戒められていた。
• 下がった理由を説明する
• 今後のシナリオを示す
• 必要なら損切りを提案する
• 顧客から逃げない
• 誤魔化さない
• 不都合な現実から目をそらさない
損切り提案は嫌われる行為だが、職業倫理として避けられない。
“説明ができない運用は運用ではない”という基本原則のもと、下落局面でも正面から向き合い、顧客が次へ進める状態を作ることが最優先だった。
逃げることが信頼を最も早く破壊する──これを誰よりもよく知っていたからこそ、野村は“逆境でこそ動く文化”を持っていた。
金融プロフェッショナルの原点──言う・行動する・責任を負う

野村の有言実行文化を一言で表すなら、主体性の塊である。
• 言う
• 動く
• 責任を取る
• 顧客を守る
• 誤魔化さない
• 自分が行動の中心に立つ
これは、単なる営業テクニックではなく、金融のプロが持つべき“背骨”のようなものだ。
現代の証券業界や金融アドバイザーは、情報発信は増えたが責任の所在が曖昧になりがちだ。しかし本来、顧客の資産運用における成功・失敗は、そのアドバイザーの“行動量と責任感”で大きく変わる。
野村の文化が今なお語り継がれる理由は、時代を超えて通用する普遍的なプロフェッショナリズムが凝縮されているからである。
どういう相場であれアドバイスを頂けると信用できると思います。
まとめ:逃げない・誤魔化さない・言って行動する──それが信頼を生む
野村證券に根付く「有言実行」の文化は、行動の美学であり、責任の哲学であり、顧客本位の思想である。
• 数字を宣言する
• 自ら動く
• 顧客に提案する
• 利益を確定させる
• 下落時に逃げず説明する
• すべてを正面から受け止める
こうした徹底した姿勢こそが、金融における信頼の源泉をつくり、長期的に顧客の資産を守り増やす唯一の道である。
“プロとは責任を負う人間”であり、“責任を負うために行動する人間”である。
野村の文化は、その原点を再確認させてくれる貴重な金融の遺産と言える。
著者プロフィール

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投資家、現役証券マン、現役保険マンの立場で記事を書いています。
K2アドバイザーによって内容確認した上で、K2公認の情報としてアップしています。
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