MDRT(Million Dollar Round Table)は国際的に権威ある保険営業職員の組織であり、世界中のトップセールスが所属している。その中でも日本は世界最多級の会員数を誇り、業界全体で「MDRT信仰」ともいえる文化が定着している。一方、アジアの他地域 ― 香港、台湾、韓国 ― にもMDRT会員は多く存在するが、それぞれの文化や制度の違いから、その「意味」や「位置づけ」は大きく異なる。
MDRTは、国によって位置付けは異なるのでしょうか?
本稿では、日本とアジア近隣諸国を比較し、MDRT文化の特殊性を確認します。
- 日本 ― 終身保険文化と営業所制度による量産型MDRT
- 香港 ― 富裕層ビジネスとIFA主導のMDRT
- 台湾 ― 中間層マーケットと「努力の勲章」
- 韓国 ― 外資系文化の影響と短期主義
- アジア比較から見える日本の特殊性
日本 ― 終身保険文化と営業所制度による量産型MDRT

前回整理したように、日本のMDRT会員数の多さは「終身保険販売文化」「営業所制度」「外交員の伝統」に支えられている。日本の生保は高額の終身保険を世帯単位で販売する慣習があり、一件あたりの契約規模が大きいためMDRT基準を満たしやすい。さらに、営業所制度の下で組織的に数値目標が管理されるため、多数の営業職員がMDRTに到達する「量産体制」が確立されている。つまり日本では、MDRTは「特別なトップセールス」ではなく「一定水準の優秀営業マンの証」として広く浸透しているのが特徴だ。
香港 ― 富裕層ビジネスとIFA主導のMDRT

香港はアジア有数の国際金融センターであり、富裕層を対象とした高額保険契約が多い。特に「貯蓄型終身保険」や「投資連動型保険(ILAS)」が富裕層の資産承継・税務対策として利用されており、1件あたり数百万香港ドルに及ぶ契約も珍しくない。このためMDRT達成は少数の大口契約で容易に実現できる。
さらに香港ではIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)が主導的役割を果たし、MDRTは「富裕層マーケットに食い込んでいることの証」として機能する。日本のように大量の営業職員が「数を積み上げてMDRTに届く」という構造とは対照的である。香港のMDRTは「富裕層専門性」の象徴、日本のMDRTは「量産型評価」の象徴 という違いが鮮明だ。
台湾 ― 中間層マーケットと「努力の勲章」

台湾では、生命保険が国民的に浸透しており、販売員数も人口比で多い。契約単価は日本や香港ほど高くないが、販売員が膨大な数の契約を積み上げることでMDRT基準を達成する。ここでは「努力して数をこなした結果の栄誉」としてMDRTが評価され、営業職員にとって社会的ステータスを持つ。
台湾では営業所制度も残っているが、日本ほど強固ではなく、どちらかといえば「個人の努力の勲章」としてMDRTが機能している。台湾のMDRTは「数を積んだ努力型評価」、日本は「組織的に量産された評価」 という違いがある。
韓国 ― 外資系文化の影響と短期主義

韓国の生命保険市場は外資系の影響が強く、成果主義・短期的販売キャンペーンが特徴的だ。営業マンは「高額の一時払契約」や「短期貯蓄型契約」で一気に売上を作り、MDRT基準を突破することが多い。これは「瞬発力勝負」の文化に近い。
一方で、解約率が高く「数字のための販売」が目立つ点が問題視されている。韓国の業界紙でも「MDRT達成がゴールになり、顧客との長期関係構築が犠牲になっている」という批判が繰り返されている。つまり、韓国のMDRTは「短期成果主義の象徴」 であり、持続性に課題を抱えている。
アジア比較から見える日本の特殊性

こうして比較すると、日本のMDRT文化の特殊性が際立つ。
• 香港:富裕層向け大口契約で達成 → 「資産承継の証」
• 台湾:中間層向け小口契約を積み上げ → 「努力の勲章」
• 韓国:外資主導の短期成果主義で突破 → 「瞬発力の象徴」
• 日本:終身保険文化と営業所制度で大量に達成 → 「量産型の証」
日本は「数多くの営業職員が組織的にMDRTを取る」ことで突出した会員数を誇っている。他国では「MDRT=トップの証」だが、日本では「一定の実力者なら取れて当然」という認識が強い。結果として、国際的には「日本はMDRT大国」と呼ばれる一方、「本当に顧客本位の証なのか」という疑問も投げかけられている。
日本のMDRTは本当に価値があるのでしょうか?
顧客本位かどうかで価値の有無が決まります。
まとめ
- MDRT文化をアジアで比較すると、その意味合いは地域ごとに大きく異なる
- 1. 日本:終身保険文化+営業所制度で量産型MDRT
- 2. 香港:富裕層向け大口契約で少数精鋭型MDRT
- 3. 台湾:中間層向け積上げ型MDRT(努力の勲章)
- 4. 韓国:外資系短期成果主義型MDRT(瞬発力重視)
この比較から見えるのは、日本が世界最多級のMDRT会員数を誇るのは「顧客本位経営の成果」ではなく、制度的・文化的背景により量産可能な環境が整っているから という点だ。今後、MDRTを真に顧客信頼の証とするためには、「販売金額」ではなく「顧客満足度」「契約継続率」「解約率」などを加味した新たな評価軸が必要だろう。そうでなければ、日本のMDRT大国としての地位は「数の多さ」だけが際立つ空虚な称号に終わる可能性が高い。
著者プロフィール

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投資家、現役証券マン、現役保険マンの立場で記事を書いています。
K2アドバイザーによって内容確認した上で、K2公認の情報としてアップしています。
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