総論:法による保護の仮面をかぶった統制の拡大
無登録金融業者の立件可能に SNS詐欺拡大、監視委に調査権限創設へ
日本経済新聞の記事によると、金融庁は2026年以降に向けて、無登録業者を「登録していない」という理由だけで刑事立件できるよう法改正を検討している 。
証券取引等監視委員会(SESC)に「犯則調査権限(立入検査・差押・刑事告発を前提とする調査権限)」を新設し、金融商品取引業に登録していないだけの業者も対象とする方針だ。
この制度設計は、一見「SNS詐欺への対策」や「投資家保護」を掲げているように見える。
だが裏を返せば、登録制度という形式的な資格要件を根拠に、行政権が私人の財産活動や表現行為に直接介入できるようにするものであり、自由経済・言論・通信の三領域すべてにおいて重大な萎縮効果を生む。
- 「無登録=犯罪」の構図が生む人権リスク
- 監視委の「犯則調査権限」拡大という制度的転換
- 日本経済新聞の記事構成の偏り
- 「投資家保護」の名を借りた市場封鎖
- 権力の暴走を防ぐには:立件よりも透明化を
「無登録=犯罪」の構図が生む人権リスク

記事では、金融商品取引業の無登録業者に対し「5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金、法人は5億円以下」と罰則を明記している 。
これまで「登録の有無」は行政指導や警告の対象にとどまっていたが、今後は**「無登録であること自体」を犯罪として立件できる**方向に舵を切る。
つまり、実際に詐欺や搾取を行っていなくても、「登録していない投資助言」「情報発信」「仲介行為」そのものが刑事告発の口実となる。
現行法の「投資勧誘」「資金運用アドバイス」「金融商品の紹介」などの定義は曖昧で、行政が恣意的に「業」と認定すれば、個人投資家のSNS投稿や海外商品紹介ですら対象になり得る。
これは、行政の裁量権を極端に拡大させ、私人の経済活動・言論活動を直接的に制約する危険な前例である。
監視委の「犯則調査権限」拡大という制度的転換

今回焦点となるのが、監視委への「犯則調査権限」の新設である。
この権限はもともと、有価証券報告書の虚偽記載やインサイダー取引といった重大な市場犯罪に限定されてきた。
それを「無登録営業」という行政違反レベルの行為にも適用することで、裁判所の令状を得て強制捜査を行える体制が整う 。
結果として、行政が「登録していない」と判断しただけで、家宅捜索・押収・通信履歴の開示請求などが可能になる。
つまり、刑事事件の発端が「詐欺の疑い」ではなく「登録の有無」にすり替わる構造である。
このような強制権の乱用は、思想・信条・営業の自由を保障する憲法第21条・第22条の趣旨に反する可能性が高い。
日本経済新聞の記事構成の偏り

記事は一貫して「被害者保護」「投資詐欺の抑止」を前面に押し出しており、制度の危険性については一切触れていない。
引用される声も「金融犯罪への抑止力が必要」という行政寄りの意見に偏っており、民間側の懸念や自由主義的視点は皆無だ 。
さらに、「SNS詐欺が1〜7月で460億円」「被害者3,759件」などの数字を提示して制度強化の正当性を印象づけているが、その背後には**「登録制度と詐欺犯罪の因果関係」についての分析や根拠が存在しない**。
実際、無登録業者のほとんどは小規模投資クラブや海外紹介業者であり、詐欺罪で摘発された例はごく一部にとどまる。
つまりこの記事は、個別犯罪を口実に、金融監視体制を恒久的に拡張することを正当化しているといえる。
「投資家保護」の名を借りた市場封鎖

現行の金融商品取引法は、投資助言・仲介・運用などを「業」として行う場合に登録を求めるが、その定義は極めて広い。
たとえば、海外ファンドを紹介しただけでも「無登録募集行為」とみなされ得る。
この枠組みのまま「無登録立件」が可能になれば、個人が海外投資を検討する自由や、金融教育・情報共有そのものが萎縮する。
これは「投資家を守る」どころか、むしろ個人が公的な金融機関を介さずに自己責任で資産を運用する自由を奪う。
結局のところ、既存の金融機関・証券会社・保険会社の独占構造を守るための法制度拡張に他ならない。
「詐欺防止」という名目で民間の自由を制限するこの流れは、戦後の「金融行政統制の再来」といえる。
権力の暴走を防ぐには:立件よりも透明化を

本来、詐欺的行為に対しては刑法の「詐欺罪」で対応可能であり、登録制度を口実にする必要はない。
行政が自ら刑事告発権限を持つのは、検察権と行政権の分離原則を揺るがす危険を伴う。
制度を強化するよりも、まず求められるのは「登録制度の透明化」「登録手続きの合理化」「国際的な金融ライセンスの相互承認」である。
監視の強化ではなく、正当な市場参加のルートを増やすことこそ、詐欺を減らす最も効果的な方法だ。
自由経済の根幹は「選択の自由」にあり、それを一律に封じる法改正は、民主主義国家としての信頼を損なう。
投資家の選択肢はなるべく広げて欲しいです。
日本は囲い込みたいだけでルールばかり作りすぎですね。それに漬け込んで詐欺が増えていたら本末転倒です。
まとめ
- 自由を守るための「不服従の権利」
- SNS詐欺対策の名を借りた今回の法改正案は、行政が民間経済活動を直接取り締まるための強力な武器を与えるものである。
- その本質は「被害防止」ではなく、「管理しやすい社会の構築」だ。
- 無登録業者という言葉の裏には、金融当局が定義した「許された市場参加者」以外を排除する思想がある。
- だが経済の自由は、資格や登録で与えられるものではない。 個人が自らの判断で投資・情報発信・契約を行う権利は、憲法上の自由権の一部である。
- したがって、このような法改正には強い慎重さと議論が求められる。 もし社会がこの動きを安易に受け入れれば、「保護」を名目にした新たな管理社会が、静かに完成してしまうだろう。
著者プロフィール

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投資家、現役証券マン、現役保険マンの立場で記事を書いています。
K2アドバイザーによって内容確認した上で、K2公認の情報としてアップしています。
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